オノマトペ

 いわゆる、擬音、擬態語である。これが分からぬ。

 擬音語や擬態語は幼稚だとする向きも強いが、中原中也だって『ゆあーん ゆよーん ゆやゆよん』だ。まあ文字通り命がけで中二病をやり通した無頼派に舌を出すような人だし、ちょっと並では太刀打ちできない幼稚さがあるのかもしれない。分からんけど。


 もう随分と昔、ラノベの文章は~、とオノマトペがやり玉にあげられた。で、当時から思っていたけれど、あれはやろうと思っても簡単にはできない。マジで。


 というのも、あの話題になってしまった擬音語は、取っ払っても大枠が成立するように書かれているのである。小説では表現できない音をどう伝えるか考えた末に、作風とマッチするのが擬音だったのだろう。分からんけど。


 擬音語とは、音を構成するあらゆる要素を単純化する、割と高度な技法である。どこが高度やねんと思った人は小説を書いたことがない。たぶん。違ってたらごめん。


 ドカァァーーーーーン!


 と、書いたとして。これが爆発だと分からなくては意味がない。だから、何がどこで爆発したかを書くとする。まあ適当に、


 十メートル先で爆弾が爆発した。

 ドカァァーーーーーン!


 オノマトペいらないだろって思う。ここだ。ここが分からんし、ムズいのだ。

 爆弾が爆発したの一文で、読者は音を再生できるだろうか。不安になる。爆発の規模を書いて爆発音を想像しやすくしようと模索する。

 

 十メートル先で爆弾が爆発した。衝波が大気を呑み込み、秒速三百メートルに迫る爆風が人や車を薙ぎ倒しながら広がっていく。中心に生まれた獰猛な火焔がすべてを焼き尽くさんと――


 いや、音。音は。そうならないだろうか。分からん。分からんが、音を正確に伝えるべく重ねた擬人法いりの情景描写がダルすぎて音を生んでくれない。

 だからといって、直接、音の描写をしようとすると、


 耳をつんざく爆発音が鳴った。


 劈かれてるのに聞こえている。いやまあ慣用句だからそれはいいが、鳴ったとは何事だ。爆竹みたいじゃないか。


 耳を劈く爆発音があった。

 

 かつて。かつてね。そんな気分になる。


 耳を劈く爆発音がとどろいた。


 轟いてるんだから耳を劈かなくても。


 爆発音が轟いた。


 どんな音? 比喩はむずいって……。


 ……かように、考えれば考えるほど深みにはまる。そんなとき、


 ドガァァァァァァン!!


 まあバカっぽいっちゃバカっぽい。けれど、見てきたように、爆発音なんて代物は擬音を使わずに書こうが大概バカっぽいのである。それでもまあ、大人っぽく音を表現したいのであれば、


 爆発音。


 とでもしとけばよい。好きな音を再生してくださいである。無責任すぎやしないか作者よ。分からん。分からんので、もうひとつ書いておく。


 その轟音は、世界を揺らした。


 これは大人っぽいと思ったのなら、それはそれでバカっぽくてよい。争いは同じレベルの(略)。まあ、小洒落たないしこなれた文章を書けますよアピールがしたいのなら、オノマトペは文中に限定するといいかもしれない。


 彼女はホッと息をついた。


 とかである。パン! と手を叩いた。とか。

 オノマトペの便利さというのは、音と一緒に大雑把な動作も説明できるところにありまして、文章量を減らしたいときとか、リズムを変えたいとき、とっても有効なのです。事前にオノマトペなしで同じ動作を書いておくと、『々』記号みたいな意味をもたせられるのだ。


 ……分からん。私はそう思ってるが、読者はどう思ってるんだろうか。

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