第13話(48話) 来るな!

 カケルにERINA’S HOUSEでの生活っぷりを疑われ全てを話さざるを得なくなった俺は、大学構内の校舎内にあるフリースペースにある4人掛けテーブルに腰掛けて、昔のこと、上京してからおこったことをすべて打ち明けた。



 昔は女の子から「ノッポさん」とバカにされるようなオタク陰キャだったこと。脱却するために陽キャになるために上京したこと。事故物件の部屋だと知らされずに入居したこと。

冷酷な管理人のハルカさんや、勘違いされまくりのリオ、俺のことを死んだドルオタ兄貴と瓜二つとか言い出すミホちゃん、ERINA’S HOUSEオーナーのエリナさん、露出激しめキャピキャピ系のマナミさんとの出会い。

歓迎会という名の激しい飲み会に参加し、二日酔いになったこと。

そして、カスミちゃんに一目惚れしてしまったこと。




 すべてを打ち明けると、カケルは「くぅ~」と言いながら下を向き、テーブルを拳でバンバンと叩き始めた。



「おい! うるさいから何度も台パンするのやめろって! 周りの人たちが見てるから!」

「だってよー! お前だけ何でそんな暮らししてるんだよ! ふざけんな! お前が羨ましかて仕方ねぇ!!!」

「分かった、分かったから、もう台パンやめてくれ!」


カケルのイライラは収まらないようで。


「おい、ヨウ。お前の部屋、連れてけよ」

「は? なんで?」

「なんで、じゃねーだろ! お前が住んでるシェアハウスに行ってみんなと飲む決まってるだろーが!」

「はぁ!? 歓迎会はたまたま行われたんだよ、飲み会だっていつやるか分かんねーし」

「じゃあ俺の歓迎会やってくれよ!」

「お前は住人じゃねーだろ!」

「良いじゃねーかよ減るもんじゃ無いし! 俺だって女の子たちと戯れたいんだよ!」


 こいついつでも煩悩ダダ漏れだな。言ってることもめちゃくちゃだし。



「と、とにかくダメなもんはダメだ。今お前が来たら、リオに後でどんな仕打ちを喰らうか分からないし……」

「ケチだなぁ。いつか必ず連れてけよな」

「いつか、な。ていうか、飲み会で女の子と戯れたいなら色んなサークルがやってる夜のお食事会とか行けば良いんじゃないか?」

「まぁそれも妥協案で一理あるな……」


 妥協て。どんだけERINA'S HOUSEに行きたいんだよ。


「よし、わかった。ヨウ、今日はこの後予定あるか?」

「いや、特にはないけど……」

「じゃあ今日はこの後ひたすら色んなサークルに顔を出して、お食事会に行く場所決めるぞ!」

「おう、そうか。行ってら」

「行ってら、じゃなくて! お前がいないと勧誘されないだろーが! 一緒に来い!」

「ぇえ!? いやだよ面倒くさいしーー」


 言いかけるや否や、カケルはスッと席を立ち、俺の腕を引っ張って無理矢理外に連れ出した。

 こいつの新歓に対するモチベーション強すぎるだろ……。




 かくして俺たちは、わざと歩幅をゆっくりと歩きながら上級生たちに声をかけられるのを待ち、手当たり次第に話を聞いていくのであった。


 それにしても、サークルって言っても色んなサークルがあるんだな。

 スポーツ系だけじゃなくて、ファッ研みたいな文化系サークルもたくさん。ラッパを吹かしながら歩いてるブラジル研究会とかいうサークルは何を研究してるんだろう? 銃を持ってうろついてるサバゲーサークルとか、誰か取り締まれよ。

 馬連れて歩いてる馬術部とか、首にでっかい蛇巻いて新入生たちにドン引きされてる爬虫類同好会とか動物系のサークルもあって、種類が多すぎて、どこに入っておけば良いのかよく分からん……。


 カケルは楽器を弾いてたってことからか、その中でも軽音楽系のサークルが特に気になったようで。「サークルに入って楽器を弾いたらモテる」と上級生から声をかけられて、俺のことはお構いなしにやたら熱心にサークルのことについて質問をしている。


「ヨウ、決めたわ。俺、今日はこのサークルの食事会行ってくるわ」

「お、おう。今日食事会やってるんだな。行ってら」

「行ってら、じゃなくて! お前も行くだろ?」

「え? 俺、楽器弾けないし、音楽よく分からないし別にいいよ、俺は帰る」


 今日はなんだかコイツに連れ回されて疲れたし、帰ってアニメ見ながら寝たい気分なんだよなぁ。


「はぁ? ……もしかして、今日お前家で飲み会でもあるのか? あるってことだよな? 俺を省いて飲みに行くってことだよなぁ!?」

「ち、ちげーよ! 普通に疲れてるから帰りたいだけだよ」

「本当か!? ……まぁ、いいや。今度絶対連れてけよ。今日目一杯楽しんで、明日お前に自慢してやるから覚悟しとけ」

「飲み会なんてやらないから安心しろって。カケルはカケルで楽しんでこいよ、俺は帰るぞ」


 俺はその場を立ち去って、まだまだ人混みで溢れている新歓中の上級生たちの群れを避けながら、そそくさと門の外へ向かった。


 ふう、疲れた……。

 さ、帰って今期4月1日から始まる新作アニメでも見ながら明日に備えるか。

 

 あれ? でも俺、大学生活で陽キャになるために上京きたんだよな?

 こんな1日の終わり方でいいのかな?




 歩きながらふつふつと考えていると。

 

「あーっ! お兄ちゃんだぁー!」


 遠くから声が聞こえてきた。

 もしかしてこの声はミホちゃん!? 今日はよく出くわすなぁ。

 声の先を見てみると、ミホちゃんがふらふらしながら近寄ってきた。

 

 あれ、なんか顔がほんのり赤くなってないか?


「お兄ちゃぁん、会いたかったぁ〜! これから何するのぉ?」


 やけに酒くさいな。 もしかして飲んでたのか!?


「ミホちゃん、顔赤いけど大丈夫? 俺はもう帰るけど……」

「え、帰るのぉ!? せっかくの新歓なのにもったいないよぉ! これからアタシは飲みに行くけど、お兄ちゃん、来るよね?」

「いや、帰るけど……」

「帰るの!? 帰るならあの事みんなにバラすよ!? いいの!?」


 酔ってるからか声のボリュームが大きい! 何をバラすのかは察したけど、その前に周りの人たちから注目集めちゃってるからやめて!?


「み、ミホちゃん落ち着いて! ちなみにどこに飲みに行くの?」

「んー? それは着いてからのお楽しみぃ。行くよー着いてきてー!」


 そう言うとミホちゃんは俺の腕にギュッとしがみつき、腕を抱きかかえながらぐいっと俺を引っ張った。

 うおお、当たってる! なんか柔らかいのが当たってる!!!



 一日中引っ張られてる俺。一体どこに連れらされるのやら………。

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