第12話(47話) 実は

 はぁ……。ショウに今から妹じゃないってこと言い出したら、多分ガチギレされるんだろうな……。


 『ブラックタイガー』の奴らとひと悶着したあと、妹であることを否定するタイミングを逃しつつも俺たちは改めて大学に向かって歩き出した。



「あーもう、アイツの顔を見るだけでムカつく!」


 マナミさんがイライラしているところ、初めて見たな。いつもはヘラヘラしてて常に酔っ払ってるイメージしかなかったのに。

 苛ついているマナミさんを、隣でユイさんがなだめる。


「そういえばまだ仲直りしてなかったの? もうあの日からかれこれ1年半くらい経ってない?」

「あんなやつとなんで仲直りしなきゃいけないの? もう一生関わらなければいいだけだし。あんなやつと付き合ってたとか人生最大の汚点だわ……」


 なるほど。マナミさんとショウは長い付き合いがあるってわけだ。


 ……ん? 今、付き合ってたって言ったよな? もしかして、ショウがマナミさんの元カレってこと!?


 2人の会話を聞いていた俺たち新入生は驚いた表情でマナミさんを見ている。


「あ! ……ごめんごめん! みんな、今のこと忘れて! もう関係ないことだから!」



 いやいや忘れられねぇよ! だって、ERINA‘S HOUSEでは根っからの女の子好きで通ってるマナミさんだぞ? なんでまたあんなチャラ男と付き合ってたんだ?


 ……もしかして、付き合ってからもショウが色んな女の子に手を出してるのが発覚して、ショウがとんでもないヤリチンだったことからマナミさんはショックで男を好きになれなくなったとか?

 だとしたら、ショウってやつは相当クズ人間だな。マナミさんが拒絶するのも納得だし、ショウ=ブラックタイガー=ヤリサーっていう方程式も成り立つ。


 ていうか、こんなにキレイでダイナマイトボディのお姉さんを彼女にしておきながら他の女に手を出すってどういうことだよ! 非モテ人生で女の子と関わる機会のなかった俺からしたら、次元が違う話すぎて理解が追いつかん! コレが陽キャって人種の特性なのか?




 ――なんて推理している間に、大学の門の前まで戻ってきていた。


 マナミさんとユイさんが俺たちと向かい合った。


「じゃ、ここで一旦お開きにしよっか。カスミたんはまた次に誘うとして、3日のパッショーネの食事会には、ヨウくんとカケルくんは来れるってことで良いんだよね?」

「はい! 俺たち喜んで参加させていただきます!」


 なんで俺までどう考えてもたくさん飲まされそうなパッショーネの飲み会に行かなきゃならねぇんだ……。


「あ、ファッ研のメンバーは明日の15時に部室集合にしてるから、みんなは5分前に部室棟の前に来てくれる? 楽しみにしてるね!」

「はい! 俺たち喜んで参加させていただきます!」


 おい、カケル、それ定型文みたいになってないか? もしかしてこの後もその言葉使っていくつもりだろ? 勘弁してくれない?


「リオちゃんも、明日は来てくれるかな?」

「あ、はい。一応行こうと思います。……あの男たちには絶対入部してもらいたくないですが」

「あはは……。とりあえずリオちゃんも部室棟前に待ち合わせってことで……」


 おいリオ、わがまま言うな。ユイさんも苦笑いしちゃってるじゃねーか。俺だってお前と同じサークルに入部するのなんか求めてるわけじゃ……。



「じゃ、ウチらはこのあたりで新歓続けるから一旦バイバイってことで! 色んなサークル覗いてタダ飯行って、最後はパッショーネに戻ってきてね!」

「みんな、一緒にランチ来てくれてありがとう。明日も会えること楽しみにしてるね!」


 マナミさんとユイさんからまぶしい笑顔を浴びた俺たちは、キレイでカッコいい先輩たちの背中を手を振りながら見送ったのであった。




「じゃ、カスミ。午後のオリエンテーションもあるし早く行こっか」

「そうだね。……日笠さん、須藤さん。ランチにご一緒していただきありがとうございました」


 まさか村本さんからお礼されるなんて! むしろこっちがお礼を言いたいくらいなのに! これはすかさずフォローしなくては!


「い、いえいえ! むしろこちらこそすみません、大事なお昼時間にこんな男2人がお邪魔なんかしちゃって……」

「みなさんとお話できて楽しかったです。あ、あと、大学では呼びやすい名前で呼び合う風習があるみたいなので、私のこともお好きなようによんでください」


えええええ!? 良いんですか!? 俺なんかがあなたのような国宝級美少女に親しみを込めた呼び方をしてしまっても良いんですか!?


「……じゃ、じゃあ、カスミさん、って呼んでも――」

「無理。ゴミの分際で生意気言わないでくれる? アンタらみたいな下等生物はカスミに話しかけることすら許さないから。さ、カスミ行こっ? こんなやつらと話してると時間の無駄だし、早くしないともう次が間に合わないよ?」


 おいリオ!!! こんな最高のタイミングで邪魔してくるんじゃねーよ!!! ていうか俺らの扱いひどすぎだろ!!!


「え? う、うん……。じゃあ、みなさんごきげんよう……」


 カスミさんと呼ぶ取り決めをできないまま、カスミさんはリオに腕を引っ張られ、2人は校内に走って行ってしまった。




「ヨウさ、なんであんなにリオちゃんから嫌われてるんだよ……。俺までゴミ扱いされてるんだが」

「まぁ、色々あったんだよ……。リオからしたら男は全員ゴミなんだよ。お前がゴミ扱いされるのは俺のせいじゃない。男だからだ」

「なるほどな……。まぁ、それは良いとして。俺たち、次のガイダンスあるの15時からだよな? たくさん時間あるから、リオちゃんとかマナミさんとかクソ可愛い妹さんのこととか、お前がなんであんな美人たちに恵まれてるのか詳しく話聞かせてもらおうか?」



 同じく俺もカケルに腕を引っ張られ、大学校内にズルズルと引きこまれていくのであった……。

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