第11話(46話) 因縁

「ん? お兄ちゃんどうしたの? アタシの身体になんかついてる?」


 俺たちが服をジロジロ見るあまり、気になって服や髪の毛を触りだすミホちゃん。

 村本さんも恐れおののいたような顔をしている。


「ま、マナミさん、もしかしてこちらの方が着ていらっしゃるウインドブレーカー、先程仰ってた『ブラックタイガー』の服じゃありません? まさか日笠さんの妹さんが入っていらっしゃったなんて……」


 村本さん違ーう!!! 俺、その子の本当のお兄ちゃんじゃありませんー!!!


 ミホちゃんはどうやら村本さんの声が聞こえていたらしく、上目遣いで俺を見つめてきた。


「あれ? お兄ちゃん、もうこの可愛い子にアタシたちのこと自慢してくれたの? もぉーやめてよぉ、恥ずかしい! ……でも、そういう妹想いなところも、好きだよ?」

「ちょっと待て! 村本さんの発言をどう捉えたらそんな思考回路になるんだ?」

「え? 違うの? ……アタシ、大事にされてないんだ、悲しいなぁ」


 いやいや、そんな悲しそうな顔で見つめられても! なんで毎回俺が悪者扱いされなきゃいけないだよ!


「あーキモい! こんなところでまたシスコンぶり発揮しないでくれる? まじ無理なんだけど」

「おい、ヨウ……。こんなに可愛い妹を悲しまるような事言ってんじゃねーよ! 俺が兄貴交代してやるから、お前はいっぺん死んでこい!」

「日笠さん、妹さんにそんなひどいこと言うような人だったんですね……」


 あぁもう、横から新入生たちからのヤジがすごい!!!


 ミホちゃんお願いだから誤解を生むような発言やめてくれ……。



 心の中で突っ込んでいると。


 後ろで歩いていた『ブラックタイガー』御一行が俺たちのところまで近づいてきていた。

 よく見ると新入生はイケメンっぽい連中ばかりだ。そして輪の中心にいる金髪ストレートヘアのショウとやらが、ぐいっと村本さんの正面に現れた。



「うわっ! 君、可愛いねぇー! あれ、もしかして前にどこかで会った? 会ったよね? 名前なんていうんだっけ? 俺たちこれからランチするんだけど、おごるから一緒に来ない? もう一回君と話したいなぁ~!」

「い、いえ、はじめましてかと思いますが……。それと私、既に昼食は終えておりますので……遠慮いたします……」


 村本さん、急に詰め寄られてタジタジになっている。

 おい、そこのチャラ男! ナンパの手口みたいな口調で村本さんに話しかけるんじゃねぇ!!!



 イライラしていると、マナミさんがぐっと前に出てショウの前に立ちふさがった。


「ちょっと、ショウ? もうこの子は『パッショーネ』に入るの確約してるんだから、引き抜き勧誘しないでくれる?」

「はぁ? まだ新歓初日じゃねーか! まだ勧誘しても良いにキマってるだろ?」


 なんだかマナミさんとショウとやら、仲が悪いみたいな雰囲気だな。


「だめ。この清純可憐な子がアンタたちみたいなヤリサーに入ったりしたら汚れちゃうじゃない」

「……おい、ヤリサーって言うな! 新入生たちがいる前じゃねーか!」

「だって事実じゃない。アンタ筆頭に何個噂が立ってると思ってるの? あ、ちなみにもうこっちにいる新入生にはヤリサーだってこと伝えておいたから」

「はぁ!? ……み、みんな、違うからねー。うちのサークルは健全なテニスサークルだからねー。はは、ははは……」



 あ、コイツが噂の元凶なんだ。しどろもどろになってる様子から見ると、噂ってのは本当みたいだな。

 一緒に来ていた女の子の上級生たちも反論したそうな顔してるけど、もしこの人たちとショウがイチャコラしていたらって考えると……。



 ん? 待てよ? もしかして、ミホちゃんも!? それは聞き捨てならないな!


「ね、ねぇ、ミホちゃん。しし、信じてはないんだけど、その、噂って、本当なの? ……お兄ちゃんは妹が心配だなぁ」

「え!? そ、そんな訳ないじゃん! 少なくともアタシはそんなことしてない!」

「す、少なくとも……?」

「あっ。……と、とにかく! アタシはそんな子じゃないって! お兄ちゃん、信じてくれないの……?」


 またミホちゃんにうるうると困り顔されてしまった。

 けど、やたらと「アタシ」って強調してきたな。ということはミホちゃんは白でも、他の女の子たちとショウは黒ってことか?



 疑問に思っていると、ミホちゃんが俺の耳に向かってコソコソと話したがっている。もしかして本当のことを教えてくれるのか?

 ミホちゃんの背丈まで少しかがんで耳を貸すと。


(こういう時だけお兄ちゃん気取りするんだね? お兄ちゃんが持ってる本、女の子がえっちなことをさせられる本ばっかりだって、ここにいるみんなに教えてあげてもいいんだよ?)



 わーーーーー!!!! 悪魔の囁き!!!!!!



「わ、分かった分かった! ……ブラックタイガー、めっちゃ健全なんだねー! すごく良いサークルじゃーん! すごいなー、入部してる先輩方、みんな爽やかだぁー! こんなサークルならお兄ちゃん安心しちゃうなー!」


 俺が態度を急変したもんだから、一緒にランチを食べたみんなが一斉に俺を見て引いている。

 悔しいけど、こんな天使みたいな可愛い顔の皮をかぶった悪魔に弱みを握られているだなんて、今この場で言えたもんじゃない……。



「お兄さん、理解してくれたんですね! そうなんです、このサークルは健全で安全な楽しいリア充サークルなんです! これからもミホのことは大事にしますので、どうか温かい目で見守っていてください」

「そそそ、そうですよねー。ははは、これからも妹をよろしくお願いしますー」



 もう、誤解のオンパレード。


 そしてあんなに俺を毛嫌いしていたショウとまさかの握手。


 俺は『ブラックタイガー』からの信用を得たと同時に、一緒にランチした人たちから不信感を得たのであった。

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