第10話(45話) 既視感

 黒と黄色のラインが入った白いウインドブレーカー。確か今朝方、そんな服着た人たちをどこかで見たような……。思い出そうとしていると。

 

「黄色と黒っすね! 了解っす、チェックしておきます!」


 カケルはフンフンと鼻から息を出し興奮気味になっている。

 いやいや、チェックしちゃダメなんだって。危ないからそもそも入っちゃいけないんだって。


「うん、気をつけて! 色んなテニサーがあるしこれからもたくさん勧誘されると思うけど、絶対ウチの『パッショーネ』が一番楽しいから! そうそう、テニスサークル毎年恒例の大会があるんだけど、単純なテニスの勝敗で勝敗で賞を決める以外にも、アピールできる賞が3つあってね。ウチのサークルは去年2冠を獲ってるの」 

「マジっすか! すっげえっす! ……で、その賞ってどんな賞ですか?」


 カケルの興味はどこまでも止まらない。


「えーっとね。充実賞、酒豪賞、ミス学内テニサー1女コンテストの3つだよ。ミスコンだけブラックタイガーに持っていかれちゃったんだよねー、ほんと悔しいっ」


 ぜんぜんテニス関係ねーじゃねーか! 酒豪賞ってどんな賞だよ! 

 ……でもマナミさんのサークル、色んな意味で相当強いんだな。まぁ、一昨日みたいな飲み会も、お酒の飲み方がおかしかっただけで実際なんだかんだ楽しかったもんな。


 ミス学内テニサー1女コンテストって、ミスコンのことだよな? 1女って、1年生女子のことかな。 もしかして、村本さんを勧誘することで今年はその賞も狙ってるんじゃ?


「あ、そうだ! 明後日の夜18時から新入生歓迎お食事会を開く予定だから、ぜひみんな来てよ! そこでウチの他の部員たちとも話せて、いっぱいウチのサークルのことについて知れるから! 今ここにいるみんなは、ランチおごるからその代わりに強制参加ね、よろしくーっ!」


 えええ、まさかの強制参加!? こんな陽キャだらけの飲み会に俺みたいな陰キャが参加して本当に大丈夫か?

 でも、村本さんも来るんだもんな。村本さんともお近づきになりたいし、ここはやっぱり参加しておいた方が……。


「す、すみませんマナミさん……。私、3日後はお父様とお母様と入学祝のお食事に行かねばならなくて、明後日のお食事会には参加できそうにありません……。も、申し訳ございませんっ」


 えええ!? 村本さん、来れないの!? じゃあ別に俺も参加する意味――。


「俺たちは行くっす! な、ヨウ?」

「ほんとー!? カケルくん、ナイスっ! じゃあ、ヨウくんも来るってこと確定でよろしくー」


 おいっ! カケルてめぇ! 俺の気持ち読み取れよ! お前がいきたいだけじゃねーか!



 ということで、明後日3日の新入生歓迎お食事会に、俺とカケルが行くことになってしまった。

 リオは最初から男子がいるサークルは入らないって言ってたし、当日知ってるメンツはカケルとマナミさんだけか。陽キャの巣窟だるし、緊張するな……。




 そんなこんなでマナミさんとユイさん主導のもと、色々とサークルについて情報を教えてもらい、俺たちは上級生の二人からランチをごちそうしてもらったのであった。


 タダで本当に良いのかな? 申し訳ない気持ちでいっぱいになってきたので、とりあえずお礼させてもらおう。


「なんか、すいません。ごちそうになっちゃって。こんな俺たちみたいな奴らにも奢ってもらえるなんて、本当にありがとうございます」

「良いの良いの―! 新入生はこの4月1日から4月8日までの8日間、いつでもタダ飯が食べれる期間なんだからー」


 あ、先輩がタダ飯とか言っちゃってもいいんだ。


「こんなにちやほやされるなんて、人生でこの1年生の8日間だけしかないんだよ? ま、カスミたんはいつでもウチがかまってあげるけどねーっ」


 マナミさんは村本さんにギュッと抱きついている。女の子だからってそんなにくっついて良いもんなのか? 村本さん若干引き気味だけど。


「そ、そうなんですね……。なんか申し訳ないなあ」

「そんなに謙遜しなくて大丈夫だって! ウチだってユイだって、みんな1女のころはこんな風にご飯たくさん奢ってもらってたんだから。ウチらが1年生のときなんて、ランチだけじゃなくてカフェとかデザートの誘いも来てたもんね」

「そうねー。おかげで体重が増えちゃって、すっごくありがた迷惑だった」


 マナミさんんとユイさんがお互いを見合わせてアハハと笑っている。そりゃあこんなナイスバディなキャピキャピお姉さんとハイパーモデルみたいな美人お姉さんが並んで歩いてちゃ、どこの上級生も勧誘したいに決まってるよな……。


「だから、気にしないでたくさん色んなサークル回っていって! 最後はパッショーネかファッ研に戻ってきてくれればそれでいいから! ……約束だよっ?」



 マナミさんからウインクを飛ばされた。うん。可愛い。そしてエロい。


 カケルも俺も鼻の下を伸ばしているところを横目にリオから見られ、「まじキモい、お前ら消えろ」とやじを飛ばされながらも和気あいあいとお店を出て、大学へと戻っていく。



 お姉さん方に連れられて、可愛い1女とモデルみたいな1女、そして古着をまとった陽キャの環の中に、偶然にも俺が溶け込んで……。


 あれ? 俺もしかして、今イケてる大学生になれてるんじゃね?

 もしかしてこれが続けば、陽キャな大学生っぽい生活ができるんじゃね!?

 



 今までの人生では全く得ることのできなかった、充実感ともいえるようなこの楽しい感覚を堪能していると。


 前の方から、聞き覚えのある声がした。



「あっ! お兄ちゃんだ! お兄ちゃーーーん!!!」


 こ、この声はっ!?


 前を向くと、ミホちゃんがこちらに向かってスキップしてきてる!? ちょっとちょっと、その短いスカートの内側、見えそうになってますけど!?


 その後ろには俺のことを本当の兄だと勘違いした「ショウ」とかいう先輩と、ミホちゃんと同じ服装をした女子が2名、そして新入生と思われる男どもが6人、ぞろぞろと歩いてる。もしかして勧誘してきたのか?



 ミホちゃん、スキップしながら俺の前にたどり着くと、俺に片手でハイタッチを求めてきた。

 

「お兄ちゃん、やっほー! あれれ、リオちゃんにマナミさんもいるの? あっ、ユイさんもいるじゃん! ねぇねぇ、ていうかもしかしてリオちゃんの隣にいる子、めちゃくちゃカワイイって噂になってる子だよね!? やっと会えたぁ~!!!」


 ミホちゃんが目をキラキラさせながら村本さんを見ている。ミホちゃん、ユイさんとも知り合いなんだな。 

 ミホちゃんのペースに持っていかれて呆然としていると、カケルがキレ気味に耳打ちしてきた。


(おい、ヨウ! お前になんでお前にこんな可愛い妹がいるんだよ! しかもなぜか先輩っぽいし!)

(い、いや、それには色々事情があるんだよ。訳あってミホちゃ……この先輩からお兄ちゃん扱いされてるんだよ)

(は!? 全く意味わかんねーよ、ちゃんと説明しろよ! ていうか、この人、もしかして例の……) 



 ん? 例の?


 カケルの視線と同じ視線でミホちゃんを見てみると――。



 ミホちゃんが着ている白地のウインドブレーカー、腕に黄色と黒のライン。

 そして胸元に黒いトラと黄色いテニスボールのイラスト。




 ヤリサーで有名な『ブラックタイガー』のウインドブレーカー着てるじゃねーか!!!!!!!!!

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