第9話(44話) ネガキャン
自己紹介。苦手中の苦手なんだよな……。
「あ、はいっ! ひ、日笠ヨウです。経済学部経済学科です。最近、田舎から東京に引っ越してきました。えーっと、中学まではバスケをやっていて、高校からは特に何もしてません。強いて言えば料理が得意です。えーっと、テニスは未経験で、ファッションはどちらかというとあんまり分かってなくて、えっと、その……」
どうしよう、村本さんも見てる手前、下手なこと言えないし何言えばいいかわかんねぇ!
言葉に詰まっていると、先輩方が声をかけてくれた。
「あ、そういえばね、ヨウくんとはおとといウチのシェアハウスで一緒に飲んだんだけど、なかなかお酒強かったんだよ~。これなら『パッショーネ』でも活躍してくれそうなんだけどな~」
「そうなんだ、お酒もイケる口なんだ! ていうかヨウくん、身長高いよね? スタイルも良いし、モデルみたいな体型してるからファッションスナップの被写体には向いてると思うけどな~」
アレ? もしかして俺、求められちゃってる!?
村本さんも、「そうなんだ~」と言わんばかりの顔で俺のことを見てくれている。
え? まさか村本さんに関心をもたれるなんて!
これはもうちょっと自分をアピールしても良いのでは?
――そう喜んでいたのも束の間、マナミさんを超えて奥に座るリオが、俺を指さしてキレ気味に指摘してきた。
「マナミさん、違いますよっ。こいつ、人に飲ませて自分が飲むのは避けてばっかりだったじゃないですか」
「うっ。確かに、それは否めないけど……。でも、お前の分だって一緒に飲んでやったじゃんか。 お前が倒れた後も頑張ってたんだぞ?」
「でも大概は自分から飲むの避けようとしてたじゃない! しかもこいつ、朝大学に行こうとしてたときの格好、めっちゃダサかったんですよ? 今もダサいけど。あー写真撮っておけばよかったなー。こいつ、ファッションセンス皆無ですよ! こいつにファッションなんて無理だと思います!」
やべぇ。何も言い返せねぇ……。
「まぁ、リオちゃんと日笠さんも同じシェアハウスに住まれてたんですね。 お酒を飲まれていらっしゃったってことは、もしかしてリオちゃんともはしたないことを……」
違う違う違う違う! 村本さん、また良からぬ方向に勘違いしてない!?
「ちち、違いますよ! だからさっきマナミさんから話があったのは誤解なんですって!」
「え? マナミさん、カスミに何話したんですか? どうしたらはしたない話になるんですか!?」
リオが困惑している。気持ちは分かるぞ。俺も全く同意だ。要所要所をはしょって説明するからすべて悪い方向に向かってるんだよ。
そして困惑しているリオの向かい側では、何やら下を向いてブツブツ唱えているやつがいる。
「おい、ヨウ……。お前、なんちゅー羨ましい生活しとるんじゃ……」
あれ、カケルが怒ってる!? ていうか、羨ましいとかみんなの前で煩悩溢れ出ちゃってるけど大丈夫!?
村本さんに誤解されっぱなしだし、リオも困惑してるし、カケルは怒ってるし! あっちこっちで燃えてる! このままだと大変なことになりそうだ……!
「あーもう! 分かった、1から俺が説明するから!」
堪えきれなくなった俺は、立ち上がって怒っているカケルを制し、おとといからの出来事をすべて説明することにした――。
――すべてを説明し終えると、村本さんは安心したようで。
「そういうことだったのですね……。変な勘違いをしてしまい申し訳ありませんでした。私ったら、つい淫らなことを想像してしまいまして……」
「いえ、僕も初見であの説明受けたら同じことを思うので、気にしないでください……」
どうやら村本さんきは誤解を解くことができたみたいだが、そのことにリオは面白くないようで。
「カスミ、気をつけて。コイツ、ほんとに最低男だから。事故物件に進んで入居したがるし、先輩にお兄ちゃんって無理矢理呼ばせるくらい重度のシスコンだし、自分で言った作戦を自分で失敗させるようなクズ野郎なんだから」
おいおいおいおいおい! それ、全部俺の不可抗力のやつ! 俺が望んでそうしたかったわけじゃないやつ!!!
「そ、そうなんですか? やっぱり日笠さん、怖いお方なんですね……」
「違います違います! それも誤解なんですって! あーもう、何を言っても誤解される……」
「ヨウさんよ……。俺から見てもさすがに引くわ」
「だから違うっつーの!」
収拾がつかなくなって俺が慌てふためいるのを見て、マナミさんだけケラケラと笑っている。この人、悪女だ……。
そんなタイミングで、注文した料理がテラス席に届いた。よし、ナイスタイミング!
各々の前に料理が配られると。マナミさんが号令をかけた。
「はいじゃあみんな、記念すべき大学生活初日のランチ、一緒に食べよっか! いっただっきまーす!」
「「「「いただきます!」」」」
もぐもぐタイムが始まった。俺は食事中に話すのが苦手で食べている時は黙りがちになるんだが、マナミさんは終始しゃべりたいタイプらしい。サークルのことについて話し始めた。
「ウチのサークルはテニサーなんだけどね、この大学でテニスやってるサークルは部活動とか同好会も含めると全部で10個あって、みんな雰囲気とか価値観とか経験者だけとか色がバラバラなの。『パッショーネ』はテニス初心者でも大歓迎! サークル名がイタリア語で情熱って意味なんだけど、元気な子が多くていつも賑やかなんだ。あ、でもカスミたんみたいなおしとやかで可愛い子も沢山いるから、カスミたんはすっごく馴染めると思うよっ」
マナミさん、完全に村本さんをロックオンしてるな……。村本さんがパッショーネに入ったら、調教されて飲んだくれとかになったりしないよな? 俺の愛しの村本カスミ様を汚さないでくれ……。
「あ、ちなみに他にもテニサーは沢山あるけど、間違っても『タイガーショット』には絶対入らないように気をつけなね? ……大きい声じゃ言えないけど、あのサークルは見た目イケメンと可愛い子ばっかり集めてるだけで、中身はただのヤリサーだから」
「ちょっとマナミ、変なこと1年生たちにネガキャンするのやめときなよー、恨み持たれても知らないよ?」
「でもでもぉ、カスミたんとリオちゃんにもしものことがあったら困るじゃん? ……現にアイツはそうだったし」
や、ヤリサー!? そそそそそそれってもしかして、不純性行為が頻繁に行われるというサークルのことですよね!? この大学にも存在するんですか!? ていうかマナミさんの言うアイツって誰だ!?
ユイさんの言う通り、こういうネガティブキャンペーンって普通言わないのが当たり前なんだろうけど、テニサー10個あるって言ってたし新入生の奪い合いだから容赦なくネガキャンしてるんだろうな……。
「まぁ、そんなサークルがあるなんて……危ないですね、気をつけておきます……」
村本さんが怖気付いているのをよそに、カケルは真逆で興味MAXみたいな顔をしてる。
「マナミさん! その『ブラックタイガー』の人たちって、どうやって見分けたら良いんですか!?」
おい、カケル。お前、まさかブラックタイガーに入部するつもりじゃないだろうな? ヤリサーって聞いて入りたくなったんじゃないよな? なぁ?
「えーっとね、黒と黄色のラインが入った白いウインドブレーカーが目印かな」
……あれ? その色のウインドブレーカー着た人、確かどこかで見たような……。
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