第8話(43話) ファッ研

 ユイさんの自己紹介を聞き終えると、とてつもなく驚いた顔をしたカケルが早速ユイさんに質問し始めた。


「あ、あの! ユイさん、とってもお綺麗なのですがモデルか何かやられているのでしょうか!」


 ド直球な質問!!! 気持ちをストレートに伝えられるところ、俺にはできないから尊敬するわ……。


「え? あぁ、一応サロンモデル程度くらいはやってるけど……」

「マジっすか! だからそんなに髪の毛ツヤツヤしてるんすね! インスタで名前検索したら出てきますか! フォローさせてください!」


 出た、インスタ。インスタプラム、略してインスタ。イケてる奴らがこぞって「インスタ映え」なる写真を投稿したり、1日で消えちゃうような動画を撮って投稿したりする、陽キャ御用達のSNS。もちろん、俺はアカウントすら作ってない。

 で、さっき名前があがってた「サロンモデル」ってなんだ? 分からない単語は使わないでくれ。

 

「えーっと、うん、多分名前で検索すればそのまま出ると思うけど……」

「マジっすか! ありがとうございます! てか、サロモじゃなくて普通に読モとかやらないんすか?」

「んー、アタシ、恥ずかしがり屋だからちょっと読モとかは恥ずかしくって。平凡な生活送りたいから、声かけられても断ってるんだよね」


 読モ。だから何なんだよその新しい言葉!

 ていうかユイさん、こんなキレイなのに目立ちたがりじゃないとか以外と謙虚なんだな……。



 ――後で調べたけど、「サロンモデル」とはヘアサロン、つまり美容院がヘアスタイルの作品撮りを行なう際にお願いするモデルのことで、「読者モデル」はファッション誌の一般読者が誌面に登場してモデルをすることをいうらしい。

 うん、俺とは世界線が3つくらいかけ離れてる縁もゆかりもない世界だな。



「そうなんすねー! めっちゃ勿体ないっすね! むしろ読モやってほしいわー」


 カケルは初対面なのに図々しいったらありゃしない。


「で、ファストファッション研究会ってどんなことするサークルなんすか?」

「あ、そうそう。『ファッ研』はね、ファストファッションのブランドだけでオシャレなコーディネートを研究して、SNSとかにコーデを投稿したりしてるの。それ以外にも、みんなで合宿したりお祭りにいったり旅行したり、定期的に大学生っぽい遊びもやってる感じかな」


 ほうほう。文字通りファッションの研究をしているってことね。合宿とかお祭りとか旅行とか、陽キャっぽいことやってるなー。で、ファストファッションって、何? ファーストフード的なやつですか?



 俺はたくさん出てくる新しい言葉にポカンとしながら聞いてると、マナミさんが横から割って入ってきた。


「ちなみにウチもファッ研だよ! ほぼ名前だけだけど。ファッ研はね、実はアタシたちの1つ上の先輩たちが立ち上げたまだまだ新しいサークルなんだけど、公に新歓はしてなくて、ビラとかも配ってないから、紹介制の完全に閉ざされたサークルになってるんだよね」

「そうそう。でね、閉ざされたサークルとしてやってきたから、今実は人数が少なくて……」


 ユイさんが少し困った顔をしている。なるほど、となるとやはりユイさんも勧誘ですな? ユイさんのお眼鏡に適う人、いるのかな?


「あ、そうそう。みんなもう見た? 大学の中に部室棟があってね。前の代表が生徒会と仲が良かったから何とか部室を確保してもらえてたんだけど、今年は人数を補充できないと部室が取り上げられちゃうの。だから今、ユイが困ってるって感じ」

「ちょっと、マナミ! それは別に言わなくても!」


 なるほど? でも、こんなキレイなユイさんみたいな人から声をかけられれば、誰だって入りたいって思うんじゃないかな?


「了解っす! それなら、俺、入りたいっす! ファッションなら自信あるっす!」


 お、早速単純な野郎が入部希望を出してきたぞ。まぁ確かにこいつは見た目もオシャレだし陽キャだし、合ってる気がしなくもないけど……。


「あはは、早速ありがとう。でもね、実は今、女の子しか部員がいないの。だから男子が入ってもらうには、みんなから合意をとらなきゃいけなくて……」

「くぅ……残念っす。ぜひ合意がほしいっす。後で直談判しに行かせてください!」


 カケル、どんだけ入りたいんだよ。お前、もしかしてファッションというよりユイさんが目的なんじゃないのか?


「う、うん、分かった。ちょうど明日は部員みんな集まるから、13時に来てもらえる?」

「っしゃー! あざっす! ユイさんまじ神! まじ女神! ヨウ、明日も行こうな!」


 ユイさん若干引き気味じゃねぇか。いちいいやかましいやつだな全く……。

  



 ユイさんの話が一段落したところで。自己紹介タイムが再開した。


「はい、じゃあカスミたん、いってみよー!」

「えーっと……、村本カスミです。 文学部日本文学科で、リオちゃんとは先程仲良くなりました。小学校からずっと女子校で、みつば学園出身です」

 

 え!? みつば学園って、箱庭娘とかお嬢様がこぞって通っている、で有名なみつば学園!? だからこんなにおしとやかで気品に溢れてるのか。うん、可愛い。


「今まで色々な習い事をしていたので、大学ではまだやったことのないことをやってみたいと思っています……」

「そーなんだ! ちなみに、テニスはまだ未経験? 未経験なら、ウチが手取り足取り丁寧に教えてあげるよ? エヘ、エヘヘ」


 マナミさんの手取り足取り、絶対違う意味の教育だろ。


「あ、ありがとうございます……。テニスはまだやったことがないので、検討させていただきます。ファッションは、家の執事から許可を得た服じゃないと外に出れないことになっているので、ちょっと難しいかもしれません……。ごめんなさい!」


 し、執事? 服まで指定されてるとかどんだけお嬢様なんだ?


「カスミちゃん、気にしてくれてありがとね。入部するか考えてくれたその気持ちだけでも嬉しいよ」


 ユイさんが村本さんにニコっと微笑んだ。それを見て村本さんもニコッと見つめ返す。何この絵面、眼福の極みなんですけど……。



「カスミたんには『パッショーネ』についてあとでたくさん教えてあげるね! じゃあ、次はリオちゃん!」

「あ、はい……。田中リオです。文学部日本文学科です。マナミさんとそこに座ってるゴミとは同じシェアハウスに住んでいます。カスミとはさっき隣の席で仲良くなりました。中高とも女子校出身です。好きなものは小説、漫画、アニメ、ゲーム。嫌いなものは男です。入りたいサークルはまだ決まってませんが、男子がいないサークルを希望します。よろしくお願いします」


 ぶっきらぼうんに淡々と話すリオ。俺のことゴミ扱い!? ていうかどんだけ男嫌いなんだよ!


「あちゃー。男子がいないサークルってことは、『パッショーネ』じゃ無理っぽいかなー。リオちゃんに入ってもらえたら、絶対盛り上がるんだけどなー。だめかなー? 」

「はい、男子がいるサークルはご遠慮したいです」


 うわ、きっぱり断ったよ。ていうか、大学生にもなってどんだけ男嫌いなんだよ!


「うーん、残念! 男子いなくなったら、パッショーネ潰れちゃうからな~。 あ、でも『ファッ研』なら可能性あるかもね!」

「そうね! リオちゃん、背も高くてモデルさんみたいだし、ファッ研が求める部員イメージにピッタリだし。部員には、リオちゃんと同じ趣味の2年生もいるから、話も会うかも? 明日部室に遊びに来てほしいなー」

「そうなんですか? ……その先輩にはお会いしてみたいので、ここの男たちが入らないなら、明日遊びにいきますね」

「えー!? 俺たち居ちゃダメなの!?」



 冗談なのか本気なのかよく分からなくなってきた……。

 リオがファッ研か。確かにこいつ、見た目はキレイだしモデルみたいなスタイルしてるけど、持ってる服はほとんどキャラ物っぽいけど、大丈夫なのか?

 ま、ファッションについては俺が口出しするほど言えたことじゃないんだけど。



「はい、じゃあ最後はヨウくん!」


 ついに俺の番が来た! どうしよう、何話すかぜんぜん考えてなかった……。

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