第7話(42話) 初ランチ

 俺、カケル、リオ、そして村本さんの4人はマナミさんに連れられて大学の外へ向かった。


 向かっていく途中、もちろん村本さんやリオは他のサークルの上級生からも声をかけられていたが、マナミさんが「俺の獲物に手を出すな」と言わんばかりの恐ろしい形相で睨みつけていたので、察した人たちはだんだん寄り付かなくなっていった。

 マナミさん、恐るべし。


 歩きの並び順的に、先頭を歩くマナミさんと村本さんは楽しそうにお喋りながら歩いており、後方にいる俺とカケル、リオの方はとっても気まずい時間が流れていた。



 さすがに気まずかったのか、仕方なさそうにリオが口火を切った。


「はぁー。なんでアンタとご飯食べなきゃいけないの? ほんっと無理なんだけど……」

「しょ、しょうがねーだろ。俺だって不服だけど、流れでそうなっちゃったんだから」

「じゃああの時断っておけばよかったじゃない……。ていうか、アンタの横にいる男、誰?」


 リオはイライラとした表情でチラッとカケルを見ている。カケルは今にも自己紹介をしたそうな顔でうずうずしているが……。


「あぁ、こいつは――」

「あ、俺、須藤カケルですっ! ヨウとは今日友達になりましたっ! これからよろしくねっ! 君のことなんて呼べばいいかなー?」


 うわ、腹立つくらいニコニコ顔でめちゃくちゃテンション高ぇ! この女の恐ろしさを知らないからこんな態度で話せるんだろうな……。


「……は? コイツの友達なの? じゃあ、同類ってことでいい?」

「同類? まぁ、同じ学部学科だから同類っちゃ同類かな?」

「はい、無理。 アンタもコイツと同類なら、ワタシに話しかけてこないで」


 その場が凍りつくようなセリフを吐くと、リオはマナミさん村本さんの方へ合流し、ニコニコしながら喋り始めた。



 カケルは呆然としている。そりゃそうだ。名前も教えてもらえないまま拒絶されたんだもの。

 カケルよ。これがリオという女なのだよ。


「お、おいカケル! お前って、あの子と同じシェアハウスの住人なんだよな?」

「うん、そうだけど」

「なんでお前と同類だと話しかけちゃダメなんだよ! どういう関係? 話が違うじゃねーか!」

「いや、そもそもあいつの話してねーし。あいつは俺みたいな男が嫌いで仕方ないんだってよ。ていうか、そもそも男嫌いみたいな?」

「はあ!? そんなの、先に言ってくれなきゃわかんねーだろ! 話すテンション完全に間違えたわ…….」


 だからガイダンスの時に勘違いすんなよって言ったのに。


「あーもう、どうすりゃいいんだ! お前と同類とか言わなきゃよかったわー」

「おい、それは俺に対して失礼だろ!」

「……でも俺、あーいうSっ気ある子は嫌いじゃないわ。むしろ推せる」


 カケルよ。お前は相当なメンタルの持ち主なんだな。


「ところで、お前の名前叫んでたあのエロいお姉さんとか、隣の可愛らしい女の子も、もしかしてシェアハウスの人なのか?」

「あ、あぁ。確かにあのエロいお姉さんは住人だよ。隣の村本さ……か、可愛い子は、二度目まして、って感じかな」

「……ヨウ、お前ずるいぞ。なんでそんなに女の子に恵まれた生活を送ってるんだ? おかしくないか? いくら大金払ったらそんな生活できるんだ!? ぁあ!?」

「いやいやいやいや! 偶然だって、マジでたまたまなんだって!」



 怒りを顕にするカケルを止めるのに必死だったが、マナミさんたちについていくと、気づいたらこじんまりとしたオシャレな洋食屋の前に着いていた。




「ちょっと待ってて、予約してたと思うから席確認するね……。すいませーん、マスター! 6名になるんですけど、いけますー?」


 6名? この場には5名しかいないけど、もう1人は後から来るのかな?


 しばらく待っていると。


「お待たせー! 入れるってさ! そこのテラス席でいい?」


 マナミさんは俺たちを有無を言わさず手前のパラソル付きのテラス席に誘導すると、それぞれ席に座っていった。



 6名掛けのテーブルに、恥から俺、マナミさん、リオ、向かい側にカケル、一個飛ばして村本さんが座ることに。


 あぁ村本さん、眼福……。そして、外の風がうまい具合に村本さんに当たって、いちごの香りが俺の鼻孔に……。幸せすぎる!


「さ、好きなメニュー注文しちゃって! ここはウチらのおごりだから!」

「まじすかあざす! じゃあ、遠慮なく選ばせていただきます!!」


 カケルは全く気にせずに高そうなエビフライ付きのハンバーグ定食を注文している。

 おいおい、お前一番部外者感あるのによくそんな態度取れるな。カケルは全体的に謙虚さに欠けてるところがあるな……。




 それぞれ注文が出揃ったところで。注文を完了すると、マナミさんは早速みんなに質問した。


「ねーねー、みんなは今のところどんなサークルに入ろうとしてるー?」


 みんなは顔を見合わせて誰から発信するかを探っているが、それをマナミさんは察したようで。


「あ、じゃあみんな1人ずつ自己紹介しながら聞いていこっかな! ウチは諏訪部マナミって言います。テニスサークル『パッショーネ』の女子飲み会長やってます! ウチのサークルの説明は置いといて……まずは、はい! そこの君!」とカケルを指さした。


 飲み会長ってどんな役職だよ!!! そんな役職聞かされちゃサークルの説明が一番気になるわ!


「あ、はい! 須藤カケルです! 都内で一人暮らししてます! 経済学部経済学科です! ヨウと同じ学科でさっき知り合いました! 高校からエレキギターを弾いているので、軽音楽系のサークルに入りたいと思ってましたが、面白いサークルなら何でもokです! よろしくお願いします!」

「へー! カケルくんギターやってたんだ。ちなみにスポーツは? テニスとか興味ない?」


 ナチュラルに下の名前呼びをするのはマナミさんの癖なのだろうか、それとも大学の風習なのだろうか。

 

「て、テニスですか? そうですね、中学までは陸上部だったので走るのは得意ですが、ラケット使うのはどうだろな……」

「ふーん。ま、ラケット使えなくても元気があれば充分なんだけどね! カケルくん、よろしく!」


 テニスサークルなのにラケットが使えなくても良いのか。教えてもらえるってことなのかな? あ、それとも飲み会要員ってことか?


「じゃあどんどん行こっか! そしたら次、カスミたん!」

「わ、私ですか!? えーっと、その、私、大勢の前で話すのが得意ではないので、お聞き苦しいところがあったら申し訳ないのですが……」

「ううん、全然大丈夫だよ! むしろそういう恥ずかしがっているところも魅力的でかわいいし。焦らずゆっくり話してみようー!」


 マナミさん、少し心の声漏れてませんでしたか?

 

 村本さんにもう一度注目が集まったその瞬間。

 マナミさんのウインドブレーカーのポケットから、『プルルルルルルル』と着心の音が。

 マナミさん、スマホの待ち受けを覗くと。


「あ、ごめん! そこの空席に来る予定の子がもう着くみたいだから、カスミたんちょっとだけ待っててー」


 マナミさんはその場でさっと電話を受けた。


「もしもしー? あ、うん。もう注文して料理が出るの待ってるところ。うん、テラス席。あ、もう着いた? あーいたいた! こっちこっちー!」


 マナミさん、席から立ち上がりその人に向けて片手で大きく手を振る。



 みんなが一斉に目線を向けると、その先にはリオよりも細くて背が高くスタイルの良い、肌の白くてキレイなお姉さんが現れた。



 高級そうな真っ赤なタートルネックセーターに黒の膝上丈のスカート、ヒール高めの黒革のブーツ、そして高級そうな黒革のライダースジャケットを羽織っているのだが、ヒールも相まって身長が180cmくらいに見えるし、めちゃくちゃかっこいい。


 暗めで巻かれたミディアムヘアに、非の打ち所がないくらい整った顔立ち。顔がとんでもなく小さい。マナミさんに手を振ってくしゃっと微笑む笑顔がギャップで子供らしく可愛らしい。


 嘘だろ? と思うくらいの完璧なフォルムと顔……。

 

「ごめんごめん、お待たせ!」


 その人は村本さんとカケルの間の席に座ると、マナミさんが紹介してくれた。


「はい、今来たこの子はウチの友達のユイです! ウチとは違うサークルで、『ファッ研』の代表を務めてまーす!」


 ファッ研? なんか下品な響きな気がしなくもないけど……。


「あ、紹介ありがとう。急にお邪魔しちゃってごめんね。古川ユイです、ユイって呼んでください。マナミとは同じ教育学部で、高校からの友達です。『ファストファッション研究会』の代表を務めてます。みんなよろしくね」


 ――マナミさん、教育学部だったの!? あんなに人を弄んだり酒ガブガブ飲ませておいて!?

 まぁそれは良いとして、ユイさん、一般の大学生と比べると全然オーラが違うわ。めっちゃキレイだわ。この世のものじゃないみたいだわ。



 チラッとカケルの方を見やると。


 同じことを思っているのか、目を思いっきりおっぴろげて口をあんぐりと開けていた。


 おいおい、どんな顔して人の自己紹介を聞いてるんだよ!

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