第6話(41話) 羨望

 やっぱりそうだ。

 村本さんとリオの2人が、ものすごい数の上級生たちに囲まれてる!


「うわ、勧誘されてる子たち、めっちゃ可愛くね? いーなー! 俺も喋ってみてぇー! あの子たちと同じサークルに入ってみぇー!」


 カケルが「うひょー」と言いながら窓の外を眺めている。

 俺があの2人の知り合いって知ったら、こんなに興奮してるカケルはどんな反応するんだろ……。


「なぁなぁ。ヨウ、お前ならどっちがタイプ」

「へっ!? タ、タイプとか、そんなの、遠くから一瞬見ただけじゃわかんねーよ……」


 ま、ダントツで村本カスミさん推しなんですけどね!!!


「パッと見でだよー。そうだなー、俺はあの背が高くてグレーのスウェット着てる女の子がいいかなー。モデルみたいだし、乳もデカそうだしぃ」


 おいおいおいおい! カケル、やめとけ! あいつは暴言吐きまくってメンタルえぐってくるサディステックな女だぞ! 変な目で見ない方が良いって!

 

「ちょ、おま、やめとけ! リオだけは絶対やめとけっ!」

「へっ? リオ? ……なんでお前、あの人の名前知ってんの?」


 ――ハッ! やべぇ! つい親切心からポロッと言っちまった!


「え? あ、えーっと、そのー、なんていうかー、そのー……」

「何だよ。もったいぶらないで教えろよー、なーなーなー」


 ひじで俺をツンツン突いてくる。やめろ、やかましい。


「あー、もう、分かったよ。……あいつ、俺と同じシェアハウスの住人なんだよ」

「えええ!? お前、あの子と同じシェアハウス住んでるの!?」


 やめろって、大声を出すな! 視線が集まるだろ!


「しーっ! 静かにしろよ。……まぁ、全然仲は良くないけどな」

「っていうことはさ、もしかして、あの子のすっぴんとか、部屋とか、部屋着とか、見たことあったりするわけ?」

「んー、確かに見たことはあるけど……」

「マジかよ! 羨ましいことこの上ないわ! リオちゃん、だっけ? あの子の部屋って、どんな感じなの?」


 カケルよ。お前が想像している部屋とは相当かけ離れてるオタク部屋だが、それでも続きを聞きたいのか?

 ――いや、待てよ。部屋の中まで話したら、後でリオに知られたときにどんなお咎めをくらうか想像がつかない。ここは隠して置くのが吉か……。


「さすがに俺の口からは言えないから、想像におまかせするわ」

「なんでだよ―! もったいぶらないで教えてくれよー!」


 カケルがしつこくせがんで来るのをなんとかあしらいつつも、俺たちはお腹が減ったので食堂に向かうことにした。


 


 構外を出ると、案の定上級生たちが俺たちに寄ってたかって声をかけてくる――かと思われたが、カケルが一緒にいるからか、さっきよりは声をかけられない。

 カケルが上級生に思われると、相乗効果で俺も上級生に思われるのだろうか?


 だが、さっきガイダンスで手渡された俺たちが手に持つレジュメ入れ用トートバックを見ると、上級生たちは目を輝かせて声をかけてくる。

 なるほど、このトートバックを持ってることで新入生フィルターがかかるのか。


 声をかけられて俺は苦笑いしていると、横からカケルが割って入ってビラを受け取り、先輩方の話を目を輝かせながら応対してくれるのであった。

 話すのが得意じゃない俺にとって、カケルがいてくれるとなんやかんやで助かるな……。




 そんなこんなで上級生たちからの勧誘をのらりくらりとやり過ごし、俺たちは食堂にやってきた。


 大学の食堂。特にここの大学は食堂飯が美味しい、とネットでも評判だ。

 そんな評判は既にみんなが知っているわけで、食堂飯を求めて券売機には長蛇の列が並んでいた。



「うひゃー、こんなに長蛇の列になってちゃ、席も空いてなさそうだし、食いたい飯も食えねーよな」


 カケルもさぞ楽しみにしていたのであろう、残念そうな顔をしている。今日は食堂飯は諦めた方がよさそうだ。


「うん、これは諦めて外で食べるしかなさそうだな……」

「だな。そしたら、外で適当な先輩たちに声かけてもらって、飯連れてってもらおーぜ!」

「え? 先輩たちと飯? そんなのアリなの?」

「あったりまえだろ! みんな自分のサークルに入れたいんだから、飯の1回や2回くらい奢ってくれるってもんよ!」

「そういうもんなんだな……。ていうか、やけに詳しくね?」

「ま、伊達に2浪してないからな!」


 自虐なのか誇ってるのかよくわからん……。




 ということで、俺たちは食堂の外を出ると。


 近くにはまた大勢の人が集まる集団がいて、その中心にはものすごいスピードで突撃する人が。

 その人は集まる軍勢を切り込み隊長かのごとくかき分けて中へ入っていく。



「やーん! カスミたーん! やっと会えたー!」


 よく見てみると、そこには村本さんと、キャピキャピした声をあげて抱きつくマナミさんが。


 なるほど、村本さんはピンクと黒のウインドブレーカーを着た人にちゃんと報告したんだな。


「え! リオちゃんもいるじゃん! なになに、もしかして、2人ともお友達になったの? やった、すっごい嬉しいー!」


  何が嬉しいのかよくわからないが、マナミさんはリオにも肩を回して喜んでいる。それにしても、よくもまぁ俺たちのいるところまで声が通ること通ること……。



 マナミさん、リオ、村本さんの3人が何やら集団の中心で話している。

 すると村本さんが食堂を指さした。おそらく彼女たちも食堂に行こうとしていたのだろう。


 そして食堂を指さしたということは、必然的に俺たちも視界に入るということ。


 案の定、村本さんは俺を見てぺこりとお辞儀をし、マナミさんは手を振ってきた。


「あー! ヨウくーん! これからさー、カスミちゃんとリオちゃんとランチしに行くけど、一緒いに行く―?」


 大声で俺に呼びかけたことによって、集団の上級生たちが一気に俺へ視線を向ける。



 ひぃっ! めちゃくちゃ注目の的になってる!


 ランチに誘ってもらったのは嬉しいけど、村本さんといきなりランチとか緊張するし、何話せば良いか分かんないし、でも誤解はとかなきゃいけないし、横にリオがいるのが厄介だし、周りからの視線が痛いし、どうすれば……。


 返答に悩んでいると。

 カケルが俺の肩に腕をまわし、ぐいっと身体を引っ張った。


「はい! 行きます!」



 って、お前が返事するんかい!!!


「よし! じゃあ、みんなで行こー! ついてきて!」


 マナミさんは集団から村本さんとリオを引っ張り出し、俺たちにアゴで「行くぞ」と言わんとばかりに合図を送った。




 まさかの大学生活初ランチが村本さんたちと一緒だなんて! どうなることやら……。

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