第4話(39話) 再会
マナミさん、集団をかき分け、ついに中心の女の子のもとへ到達。集団の声にかき消されないよう、大声で話しかけている。
「ねーねー! こんなたくさんの人に囲まれちゃったら、なかなか前に進めないでしょ? ウチが手伝ってあげるよ、ついてきて!」
すると、マナミさんはストゼロの缶をその女の子に無理やり渡すと、もう片方の手で女の子の腕をギュッと掴み、ボディーガードのように前へ前へとグイグイ進んでいった。
「押さないで! 通れないから! ほら、アンタたち邪魔!」
集団の中で囲っている男たちは、明らかにマナミさんの胸の谷間に視線が集まっている。そんなこと気にせず、女の子を連れてマナミさんはぐんぐん坂を登っていって、遂に人混みから抜け出すことに成功した。
その様子を真正面から見ていた俺。マナミさんたちが抜け出した先に、俺がいたのだった。
「あれ? ヨウくん!? ヨウくんじゃーん! そっかそっか、ヨウくんもこれからガイダンスが始まるのかー!」
マナミさんは空いている片手で「いぇーい」とハイタッチを求めてくるが、周りからの視線が俺にも集まっていて、正直めちゃくちゃ恥ずかしい!
とりあえず「お、おはようございます……」と申し訳なさそうにハイタッチすると。
目の前には、うさぎ顔でイチゴの香りがする俺が一目惚れした女の子が!
うわぁ、眩しい! めっちゃ可愛い!!!
そしてこの匂い。忘れられないこの匂い。また嗅げるなんて思ってもなかった……。
すると、女の子はあろうことか俺の顔を見て、「あ、あなたはもしかしてあの時の……」と何かに気づいた顔をした。
「あれ? もしかして、2人とも、知り合いなの?」
マナミさんが俺とその女の子の顔をキョロキョロと見ている。
「は、はい。そのお方は昨日、私がスーパーでおにぎりを買おうとしたときに、譲ってくださったんです」
え!? 覚えててくれたんですか!? 幸せの極みだ。ありがとう、ありがとう……。
「あ、そーだったの? そういえばヨウくん、昨日スーパーの袋ぶら下げて家に帰ってきたの見たような……」
「え? も、もしかして、お二人はご一緒に住んでいらっしゃるのですか?」
「うん、そだよー!」
ちょいちょいちょいちょい!!!
その言い方だと語弊あるって! 同棲みたいに思われるって!
「ち、違いますよ! 確かに同じ屋根の下では暮らしてますけど、決してそういうわけじゃ――」
「朝起きたら、ヨウくん顔真っ青にしながら横で寝てたもんねー。そりゃあ何か食べないと二日酔いも回復しないもんね、ウチもよくあのスーパーの梅干しおにぎりを食べて二日酔いを治してるからよく分かるよ、うんうん」
おいおいおいおいおい!!! ダメですって!
その話の流れ、余計に勘違いされるでしょーが!!!
「まぁ、なんと……。お二人は、一緒に寝ていらっしゃるのですね」
「ちちちちち違うんです! それにはふかーい訳が――」
「ヨウくんったらぁ、違くないじゃない。あんなに(お酒の飲ませ合いが)激しい夜だったのにー。朝起きたら記憶がないとか言われて、悲しかったんだよ?」
ちっがーーーう!!!!!!
そんな言い方、完全にヤッた後の朝だと誤解されるでしょーが!!!!!
「そそそ、そうだったんだんですねっ! 私、なんて恥ずかしいことを聞いてしまったのかしら……」
白い肌のうさぎ顔が、みるみる真っ赤に染まっていく。
あぁ、完全に誤解されましたわ。 マナミさん、やってくれましたわ。
「だから、違うんですって! いやらしいことなんて全くしてないんですって――」
「でも、あの夜はホント激しかったなー。ウチとヨウくん2人で酔った女の子抱えて連れて帰ってきたあと、みんなヘロヘロだったもんね」
「えええ!? も、もしかして、3人でそんないやらしいことを……」
違う違う違う違う違う!!! もう、全部違う!!!
あぁ、終わった、俺、完全にヤリチン野郎に思われてる……。本当はまだ童貞なんですけどね……。
「ほ、本当にそうじゃないんです! どうか理由を聞いてくださ――」
そう言いかけた途端。構内に設置されたアナウンス用スピーカーから、チャイムの音がした。
マナミさんが「あっちゃー」とオデコに手を当てている。
「これ、1限の授業が始まる5分前のチャイム。もう話す時間無くなっちゃったー。ねぇねぇ、また後でお話したいからさ、とりあえず名前教えてよ!」
「あ、はい。私、村本カスミと申します」
カスミちゃんっていうのか……可愛い名前だぁ……。
「カスミちゃんね。ウチは諏訪部マナミ。で、こっちが日笠ヨウくん」
「え? あ、えーっと、俺、日笠ヨウって言います。あの、その、後で絶対、誤解を解きたいので、またお話させてください! お願いします!」
俺はテンパって目も合わせられず、とにかく深々と頭を下げた。
「……諏訪部さんと日笠さんですね。分かりました、また構内のどこかでお会いした際には、ぜひお話させていただけたら幸いです」
村本カスミさんは俺たちに向かってニコッと微笑んだ。あぁ、可愛いっ!
「うんうん! あ、ここからが大事な話なんだけど、ウチのサークル、『パッショーネ』っていうテニスサークルだから、覚えといて! ピンクと黒のウインドブレーカーを着てる人を見かけたら『マナミと話した』って、その部員に伝えてもらえる? そしたらすぐカスミちゃんのところに飛んでいくから!」
「はい。『パッショーネ』さんと、ピンクと黒のウインドブレーカーさんですね。覚えておきます。それでは、ごきげんようっ」
こうして村本カスミさんはお辞儀をして小走りで3号棟の構内へ入っていた。
そっか、俺とは違う学部なんだな。でも、まさかの偶然が重なって、名前まで聞き出すことができた。これって、陽キャになるための第一歩なんじゃないか?
……とんでもない誤解をされちゃったけど。
チラッと横をみると、マナミさんは村本さんの後ろ姿を見ながら不敵な笑みを浮かべている。
「あの子をサークルに入れたら、間違いなく新入生の男の子たちが寄ってくるわ。何として入部させなくちゃ。あわよくばウチのことも好きになってもらって……ぐへ、ぐへへへ」
うわぁ……。そういう魂胆だったのか。
単純に女の子好きだから近寄ったのかと思ったら、可愛い新入生を餌にして、他の新入生もサークルに入れようとしてるのか。ずる賢いというかなんというか……。
――あ、そうだ! このままじゃ俺もガイダンスに間に合わない!
「す、すいませんマナミさん! 僕もガイダンス行ってきます!」
「あ、うん! いってらっしゃい!」
「あと! 誤解を生むような変なこと、もう言わないでくださいよー!」
俺は捨て台詞のごとくマナミさんにクレームを入れ、5号棟へ向かって走り出したのであった。
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