第3話(38話) 特攻隊


「あーっ! やっぱり、お兄ちゃんだ! やっと会えたー!」


 白いスカートとスニーカーに、黒と黄色のラインのが入ったウインドブレーカーを纏い、右腕と胸の間にラケットを挟んだミホちゃんが、ニコニコしながら俺の手を左手で握ってぴょんぴょん飛び跳ねている。



 な、なるほど、ミホちゃんも新歓に参加していたんだな? ミホちゃん、テニスサークルだったのか!


 ていうか、周りの新入生たちから視線感じるんだけど……。

 小動物のような可愛さ満点のミホちゃんが喜んでいるもんだから、周りの男たちから羨望と疑問の視線が投げかけられているような……。



 恥ずかしさを感じていると、同じウインドブレーカーを羽織った、いかにもウェイウェイ系っぽい金髪ストレートヘアの男子がミホちゃんに声をかけてきた。


「おー! ミホやるじゃん! 早速勧誘1人成功したん?」

「あ、ショウ先輩! ううん、歓迎じゃなくて、今はお兄ちゃんとお話してただけですっ」

 


 ちょ!!! お兄ちゃん呼び、やめて!!! ややこしくなるから!!!



 焦った俺は、ミホちゃんにヒソヒソと耳打ちする。


(ちょ、ちょっとミホちゃん! さすがに大学でお兄ちゃん呼びはダメだって!)

「えー? なんでだめなの?」


 俺にヒソヒソ声に対して、困り顔をしながら普通の声量で返すミホちゃん。


(いやいやいやいや! だって、俺ら本当の兄妹じゃないし! 大学で妹扱いはできないって)

「え? お兄ちゃん、アタシのこと、嫌い? ひどい、ひどいよお兄ちゃん……」 


 しょんぼりしながら、今にも泣きそうな顔をするミホちゃん。



 なんでそう捉えちゃうんだよ!!!

 


「あのー、よくわかんねえっすけど、お兄さん、兄弟喧嘩とかこんなところでしないでもらっていいっすか?」

「え? い、いや、別にそういう訳じゃ……。ていうか、俺ら兄妹じゃ――」

「このあとの勧誘も、ミホが一番男子を勧誘してきてくれるはずなんで。ミホに新歓のモチベ下げられちゃったら、今日のノルマ、達成できないんで」


 ノ、ノルマ? ……よくわかんないけど、このショウとか言う男、やたら俺につっかかってくるな……。とりあえず、面倒だから平謝りしとくか……。


「はぁ……。なんか、すいません」

「はい。今日はこれ以上ミホに関わらないでもらってほしいんで。そんじゃ」


 ショウとかいう男は、ミオちゃんの両肩に手を置いて「ミホ、気にすんなって。ほら、次行こ?」と無理やり俺たちを引き剥がした。



 なんだか勘違いされてるし、敵対視されてるし、なんだったんだよあいつは……。

 ミホちゃんをしょんぼりさせちゃったまま連れて行かれたことも、もやもやするし。くぅ、胸糞悪い……。



 ――ていうか、早くしないと9時のガイダンスに遅れちまう。こんな調子で勧誘受けてたら、遅刻確実だ。


 俺は事前に案内されていた学内地図のパンフレットを見て、大学構内の「5号棟」を目指した。




 大学は、敷地内にすべての学部が勉学に励むことができるよう1つにまとまっている。いわゆる「ワンキャンパス」というやつだ。ワンキャンパスなので、キャンパス内には複数の棟があり、そこで日々講義が行われる、ということだ。

 

 とはいえ、今いる位置から5号棟まで少し距離がありそうだ。俺は新歓の勧誘をガン無視し、スタスタと棟を目指していく。



 歩いていくと、5号棟への通り道である上り坂に大きな人だかりができていた。どうやら上級生と思われる人たちが大勢で誰かを囲っているようだ。集団は少しずつ前進しているようだが、人が多すぎて道がぜんぜん通れない。


 邪魔だなぁ、このままだと遅刻しちまう……。


 俺はわずかに集団と建物の間に見えた隙間を見逃さず、無理やりその間をくぐり抜けてなんとか集団から抜け出した。



 ふぅ。まったく、寄ってたかって大勢で集団になって、迷惑ったらありゃしない。

 一体何が行われてたんだろう……。


 ある程度坂を登ったあたりで、集団の中心を見下ろすと。



 そこには、フリフリしたピンクブラウスにグレーと赤のチェック柄タイトスカート、薄いベージュのトレンチコートを着た女の子が、ものすごい人数の上級生たちから声をかけられていた。


 うわぁ。人気者だなぁ。どんだけ可愛い子が声かけられてるんだろう。



 その女の子をよく見ると。


 白い陶器のような肌。、顔を包み込むような茶髪のミディアムヘア。髪はツヤツヤで、天使の輪っかのように光り輝いている。



 あれ、もしかして、この雰囲気は……。


 困った顔をしながら、「ありがとうございます、ありがとうございます」とひたすら会釈をして歩いている女の子。




 間違いない。あの子だ!


 俺が昨日スーパーで出会った、うさぎ顔でイチゴの残り香がする、一目惚れした女の子だ!!!


 まさか、同じ大学に通っていたなんて! しかもあの様子だと、同じ大学1年生っぽいよな! 


 うおお、こんな偶然、運命にしか感じねぇ……!!!




 興奮しながら見ていると。


 うさぎ顔の女の子に話しかけようと、集団の中をかき分けていく巻き髪茶髪の上級生がいる。

 めちゃくちゃグイグイ進んでいくけど、あんなことして良いのか? 誰だ?

 


 集団に近づいて見てみると。


 ピンクと黒のウインドブレーカーを羽織り、胸元が大きく開いた淡い水色のセーターからたわわな胸の谷間を見せつけている女性が「どいてどいてー!」と言いながら、まるで特攻隊のごとく群集をガンガンかき分けて進んでいる。


 そして片手に握ってる缶を飲みながら進んでいるけど……。あれ? もしかして、よく見てみてたら、ストゼロじゃね!?




 ――間違いない。あれ、マナミさんだわ。ERINA'S HOUSE の住人、マナミさんですわ。




 女の子が大好きなマナミさん、集団の真ん中にいる、俺が一目惚れした女の子に向かって突撃!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る