第35話 嫉妬
「あ! いや、何でもないよ!」
口が滑った俺を見て、ミホちゃんは興味深々だ。
「えー! なになに? もったいぶらないで話してよー」
「だから何でもないって! ミホちゃんはむしろ聞かないほうが良いことだって!」
「ふーん、教えてくれないんだ。じゃあ、昨日撮ったあの写真、エリナさんとかにもバラしちゃおうかなー」
くそっ、なんて卑怯な! 天使だと思ってたらすぐ悪魔の一面も出してきやがる!
でも、自分から言い出しておいて、今更言わないっていうのもさすがに苦しいよな。
妹だし、別にいいよな。ここまできたら、正直に話すしか……。
「じゃ、じゃあ、正直に言うから、絶対に変な風に思わないで聞いてね……」
俺はフラペティーナを飲みながら、スーパーでの出来事をミホちゃんに話した。
おにぎりを取ろうとしたら、うさぎ顔の女の子と遭遇したこと。
自分が今まで出会った中で、その子が一番輝いて見えたこと。
イチゴの香りが忘れられなくて、未だに思い出すこと。
ストロベリーなんたらかんたらフラペティーナを飲んで、再び思い出してしまったこと。
……もちろん好きになってしまった、とは恥ずかしくて言えなかったが。
全てを黙って聞いてたミホちゃんは、俺が話しを進めていくたびにムスッした表情になっていって、全てを話し終えたころには完全に不機嫌になっていた。
「……お兄ちゃん。アタシっていう可愛い妹がいるのに、よくそんな話できるね」
「ぇえ!? 話せって言ったのはミホちゃんでしょーに……」
「話せって言ったけど、そんな話をされるなんて思ってなかったもん!」
「そんなこと言われても……」
言わないで逃げるのが正解だったのか? それとも嘘ついて違う話するのが正解だったのか?
だめだ、答えが分からねぇ!
「せっかくフラペティーナ買ってきてあげたのに、他の女の子の話するなんて思わなかった。お兄ちゃんはアタシのこと好きじゃないの?」
「え? な、なんだよいきなり!」
「だって、そのイチゴの匂いがする女の子が好きなんでしょ? アタシなんかどうでもいいんでしょ?」
またそんな極端な……。
「そんなことないよ、ミホちゃんはミホちゃんだよ。どうでもいいわけなんかない」
「ホント? ぜったい? 嘘つかない? アタシのこと、大切?」
「うん、嘘つかないよ、大切だから」
だいたい陰キャの俺が、こんな天使みたいな子とおしゃべりできて、しかも妹扱いできてる状況自体、ありえないんだからな。嘘つくわけないだろうに。
ミホちゃんはムスッとしていたが、最後に言った言葉が効いたのか、ニコっと顔を戻した。
「そっか……アタシのこと、大切にしてくれるんだ。嬉しい。じゃあ、もう二度とアタシの前でその女の子のことは話題に出さないでね? アタシ以外の可愛い子に目移りしちゃだめなんだからね?」
「え? う、うん……」
「約束だからね? はい、じゃあ指切りげんまんしよっ?」
……なんだか深い闇を感じたが、その場の流れでとっさに小指を出してしまった。
「ゆーびきーりげーんまん、うっそつーいたらはーりせーんぼんのーます、そしてうっそつーいたら昨日撮った写真全部SNSにさーらす、そしてうっそつーいたら大学でどこにも居場所がないように大学中にお兄ちゃんのヘンタイな趣味さーらす、指切ったっ♪」
んんん!? 追加でとんでもないことぶちこんでない!?
「はいっ! 約束やぶったら、どうなるか覚えといてね♪ じゃ、また明日ねー!」
こうしてミホちゃんは指切りを済ませると、飲んでいたフラペティーナのストローを加えながら「ばいばーい」と俺に手を振って、部屋を出ていった。
な、何なんだよあの指切り! やってること完全に束縛と脅迫!!!
ミホちゃん。地雷系女子だったのか!
もしかして、ドルオタ兄貴もこうやってミホちゃんに洗脳されていったのかも……。
ミホちゃんの指切りに怯えすぎて、フラペティーナを飲みきってもチューチュー吸い続けるのであった――。
俺は明日からの大学生活に備えて準備をすると、そそくさと3階の男子専用浴室でシャワーを済ませて夕飯を食べ、早めにベッドに入った。
明日から、夢のキャンパスライフか……。
俺、ちゃんと陽キャラになれるかな? 大学生活で、イケてる奴らの仲間入りできるかな?
大学生活といえば、青春だよな。
仲良くなれた女の子とか、あわよくばイチゴの香りの女の子とかをお持ち帰りなんかしちゃって。ワンチャンワンナイト、なーんてことも起きちゃったりして……。
――ハッ。そんなところ、この館の住人に見つかったらどうしよう。
リオに見つかったら、完全にキモがられて拒絶されるよな。
ミホちゃんに見つかったら、指切りげんまんしたとおりの事が遂行されるに違いない。
マナミさんだってハルカさんだってエリナさんだっているのに、お持ち帰りとかできるのか?
もしかしてシェアハウスって、不自由な環境だったのかも…。
色々な不安と期待が交錯しながらも、遂に俺のキャンパスライフが幕を開ける――!
***
(あとがき)
どうも、正田マサです!
女子だらけのシェアハウスに住めば陰キャな俺でも陽キャになれるか研究会、いつもご愛読いただき本当にありがとうございます!
1話で荒れた飲み会のシーンを出してから回収するまでに27話までかかってしまうとは思ってもいませんでしたw
やっと長い長い上京2日間が終わり、次回から遂にキャンパスライフ・新歓編がスタートです!
これからもっとキャラクターが増えたり話が広がったりしていきますので、次回からもぜひ楽しんでいただけると嬉しいです。
よろしくお願いいたします!
※登場人物が多くなってきたので、各メンバーの登場話を再掲します。ちょくちょく出てくるので、忘れたころにまた読み返してもらえたらと思います。
・ハルカ:2話
・リオ:4話
・ミホ:6話
・エリナ:9話
・マナミ:15話
・ イチゴの残り香がする女の子:33話
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます