第29話 ちゅんちゅん

***

※お酒は二十歳になってから。

※お酒はおいしく適度に飲み方を考えて楽しみましょう。

※汚い表現が含まれるため、お食事中の方はお気をつけください。

***


 案の定、リオに勘違いされてしまった。


 よりによって太ももの外側(モモカン)攻撃。




 痛っっってええええ!!!




 蹴られた衝撃でベッドから突き落とされ、床にドカンとうつ伏せに不時着した。



 ぐはぁっ! 痛っっってええええ!!!



「二度とワタシの横で寝るな、ヘンタイもやし! あとでベッドのクリーニング代請求するから!」



 なんで俺が悪者扱いされなきゃいけないんだよ! お前だって俺の左半身がっつりホールドしてたじゃねぇか!



 俺が転げ落ちるところを、よつん這いになりながらも華麗に避けたマナミさん。


「あら、ヨウくんに逃げられちゃった。せっかく昨日のこと思い出させてあげようと思ったのにー」


 俺は「いてて……」と上半身を持ち上げながら、マナミさんが手を伸ばしていたローテーブルの先を見ると、そこには茶色い液体の入った瓶が鎮座していた。


「ちょ、マナミさん! 俺に何しようとしてたんですか!」

「ホントに覚えてないんだー? 昨日ヨウくん、部屋についたと思ったらベッドに倒れ込んじゃってさ。 飲み物がほしいほしいっていうから、お口にウイスキー注いであげたんだよ? 良い顔してたなぁ~」



 は? 俺がウイスキーなんて欲しがる訳ないだろ! そういう時は水だろ普通!


 この人、俺の記憶がないのを良いことに、絶対好き勝手言ってるよな? あとでここの住人全員に聞き込み調査して、真実を証明してやる。


 ていうかもし飲んでたんだとしたら、この二日酔いの原因、確実に寝ながら飲まされたことも一因だよな。ふざけんな!


「そんなことしようとしてたんですか!? いらないですよ! ましてや、今めちゃくちゃ気持ち悪いですし!」

「えーそうなの? もしかして二日酔いになっちゃた? じゃあ、迎え酒だねっ」


 マナミさんはベッドから降りると、テーブルの上にあるウイスキーの瓶を手に取って、再び俺に飲ませようとしてきた。



 迎え酒!? 二日酔いに追い酒なんて、毒でしかねぇだろ!!!


「ちょ! ほんと、勘弁してください!」



 俺はゾンビに襲われているかのごとく腕で後ろにのけぞりながら、テーブルの周りをぐるぐると周り押し寄せるマナミさんから逃げつつ、死にものぐるいでリオの部屋から飛び出した。


『二度と入ってくんな!!! このヘンタイ!!!』


 ……ドア越しにリオの怒号も聞こえる。


 どうやらマナミさんも追って来ないようだ。



 あーよかった! 飲まされるとかマジで地獄だわ。ていうかなんで俺、リオの部屋で寝てたんだろう?

 あの2人に挟まれてたシチュエーション、もうちょっとだけ味わってたかったな……。



 なんて、よこしまな考えが浮かんでいると。

 二日酔いのだるさ復活。吐き気と頭痛、そして喉の乾きが襲ってきた。


 ――そうだ! 水が飲みたくて仕方ないんだった!



 廊下を挟んで部屋の向かいにある洗面室にいくと、洗面台の蛇口をひねって水を出し、近くにおいてあった歯磨き用のコップに水を注いでは何度も水をゴクゴクと飲みまくった。


 歯磨き用のコップだとか、水道水だとか、そういう衛生面は一切気にしてられない。とにかく身体が水を求めていた。



 パッと洗面台の鏡を見ると、真っ青になっている自分の顔があった。

 うわぁ、相変わらずだけど、不健康な肌の青白さに、悪い意味で磨きがかかってる……。


 今気づいけど、コンタクトレンズつけっぱなしで寝ちゃってたな。とてつもなく目がしばしばする。

 二日酔いだと、気付くのが遅れたり思考回路も回らなくなるんだな。

 ワンデーだし、洗面台横のゴミ箱に捨てておこう。



 こうして水をありったけ飲み込むと、今度は吐き気が一気にこみ上げてきて。

 我慢できずに、洗面室の隣にあるトイレになだれ込むように入って、飲み込んだ水を一気に吐いた。



 ふぅ……スッキリした……。


 二日酔いのときには無理矢理に水を大量に飲んででも、吐いたほうがスッキリするのかもな。



 一応スッキリはしたけど、まだ頭はズキズキするし、どうしても気持ち悪さが残っている。そして全体的に身体が重い。


 

 あ、そういえば、今何時なんだろ?


 廊下の窓から差し込んでくる朝日が眩しい。

 壁にかかっていた時計に目をやると、デジタル時計は6時55分を示していた。


 本来なら気持ちの良い朝なのに、俺の身体はすこぶる体調が悪い。


 一旦自分の部屋に戻って、回復がてら寝るか……。


 

 トボトボと廊下を歩きつつ、自室である202号室のドアを開けると、部屋は真っ暗だった。


 あれ、部屋の電気ってどこで付けるんだっけ? そういえば、説明受けてなかったな……。


 仕方がないので、モノ伝いに手探りで、2段ベッドまで向かっていく。

 真っ暗なせいもあるが、コンタクトレンズを外してしまったせいもあって視界がぼやけていて、ぜんぜんよく見えない。


 しばらくトボトボと物色していると、ついに2段ベッドのはしごの感触が。


 見つかった、よかった、やっと寝られる!



 はしごをよじ登り、ベッドに入ろうと、右手をマットレスに置こうとした瞬間。



 ふにっ。



 あれ? なんだろうこの感触? マットレスってこんなに柔らくて弾力あったっけ?



 ふにふにっ。



 確かめるようにもう一度触ってみる。



 うーん、俺の知ってるマットレスじゃないような……。




 疑問に思っていると。


 ベッドの頭側の方から、けたたましい音で「ちゅんちゅん、ちゅんちゅん」と鳥のさえずりが騒ぎだし、「ブーーーッ」とバイブ音が。



「うわぁ!」 


 びっくりして音がする方を見ると、スマホの画面が光っていて、アラームが7時ジャストをお知らせしていた。



 あれ、でもこれって俺が掛けてるアラームの音じゃないよな……。


 スマホの画面の明かりでぼうっと部屋が照らされたので、恐る恐るベッドを見ると。



 そこには、「うーん……」と怪訝な顔をして眠っているミホちゃんが。



 そして、ふにっと何かを触っていた俺の右手は、ミホちゃんの右胸をふにふにしていたことが発覚した。

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