第22話 本音
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※お酒は二十歳になってから。
※お酒はおいしく適度に楽しみましょう。
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妹が欲しい願望がある女の子に初めて出会った。
そもそも女の子と絡むことすらない人生だったから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。
「えーっと、つまり、俺が先に妹ができちゃったことから、お前は俺に嫉妬している、と?」
「……そう!」
「しかも、お兄ちゃん呼ばわりされているのが気に食わない、と?」
「……だから、そうだって言ってるでしょ! なんでアンタなんかに、あんなに可愛くて天使みたいな妹ができるの? しかも歳上だし! 意味分かんない!」
どうリアクションをとればいいか分からない。
いやー、俺も全く同意見なんですよねー。
改めて考えてみると、すごい話だよな。
ノッポさんだの、もやしみたいだの言われてる俺が。
細身で背が小さくて黒髪ショートヘア、童顔の小動物みたいな女の子が、俺のことをお兄ちゃん扱いだぜ?
しかも相手は俺よりも歳上の人から。
「正直さ、なんでお兄ちゃんって呼ばれてるか、俺もよく分かってなくて……」
お兄ちゃんって呼ばれる理由。
唯一あるとしたら、昔住んでいて亡くなった住人(ドルオタ兄貴)にそっくりだったから。
なーんてこいつに言ったら、どんなリアクションされるか分からないよな……。
それ以外に理由があればいいんだけど、思いつきもしないので一旦その事実は伏せておくことにした。
酒が回ってフラフラになっているリオ。
もどかしそうでむしゃくしゃした顔をしている。
そしてそのままトイレのドアを開けると。
「じゃあ! ワタシがトイレから出てくるまでの間に、どうやったらワタシのこともお姉ちゃんって呼んでもらえるか考えときなさい!」
と、言い放ち、バタンッとドアを思いっきり閉めた。
えええ、俺が考えなきゃいけないんですか!?
「んー。そうだなー」
酒のせいでうまく思考が回らないながらも、俺は必死に考えた。
そういえば、あいつの部屋。
よくよく思い返せば、ラノベがびっしり詰まった本棚とか、壁には妹キャラがヒロインのポスターが貼られてたりとか、妹キャラが好きなフラグががっつり立ってたな。
そんな部屋の中にミホちゃんも入ってたわけだし、あいつの人となりは分かってるはず……。
となると、リオが思ってることを正直にミホちゃんに伝えちゃった方がいいんじゃないか?
――もう、素直になっちゃえばいいんじゃないか?
しばらくすると、リオがトイレから出てきた。
相変わらず足取りはふらついている。
「で、ちゃんと考えたんでしょーね? どうすればワタシがお姉ちゃんって呼んでもらえるか」
「そのことなんだけど……。もう、素直に言っちゃえばいいんじゃない?」
リオ、キョトンとしている。
「……はぁ? 素直に言う? どういうこと?」
「だから、『ワタシは妹キャラが大好きなので、お姉ちゃんって呼んでください』って言っちゃえばいいんじゃないか、って言ってるんだよ」
――酒に酔って既に赤くなっているリオの顔が、更に赤くなった。
「はぁぁぁぁぁあ!? 何言ってんの!? ワタシが妹キャラが好きだって、何を根拠に言ってんの!?」
「いや、だってお姉ちゃんって呼ばれたいって言ってるじゃん?」
「だーかーらー! お姉ちゃんって呼ばれたいのは百歩譲って認めるけど、それのどこが、妹キャラが好きってことに繋がるのかって聞いてるの!!」
だめだ、コイツ分かってない。
……仕方ない、ボコられる覚悟で、理由を説明してやるか。
「だって、お前の部屋に飾ってたポスターとかさ。タブレットを抱えてエロいイラスト描いてるような、可愛い銀髪の妹の絵とか飾ってたろ(第11話参照)?」
「――は、はぁ!? アンタ、部屋の中、覚えてたの? 無理無理無理無理! キモすぎなんですけど!」
リオの無理無理ラッシュにも屈さず、俺は反撃を続ける。
「さっきミホちゃんのスマホをお前が勝手に奪い取ってたときも。あのときの画面、妹がお姉ちゃんから辱めをうけているシーンのセリフだらけだったし。いつもだったらキモいーとか無理ーとか言うところなのに、お前、それ見て顔真っ赤にしてただけだったろ? てことは、本当はもっと続きが読みたかったり――」
俺の推理は当たっていたのか。
理由を聞いていたリオは顔を更に真っ赤にさせ、俺の言葉を遮るように、肩をガシッと掴んで前後にユサユサと揺さぶり始めた。
「止ーめーてーーー!!! これ以上言ったらぶっとばす! ミホさんにバラしたら、タダじゃおかないんだからぁー!」
「ふーん。じゃあ、いつまで経っても、ミホちゃんはお前のことお姉ちゃん扱いしてくれないだろうなー」
拍車をかけると、更にぐわんぐわんと肩を揺さぶってきた。
やめろやめろ、頭も振られて酔いが回るだろーが!
「もーう! じゃあ、どうすればいいのーーー!!!」
「落ち着けって! そんなに揺さぶったら――って、うわぁ!」
――ドスンッ!
猛烈な勢いで肩を前後に揺さぶられていたせいか、リオに引っ張られ、つい堪えきれず、床に向かって前に倒れてしまった。
倒れた床の先には、仰向けに倒れているリオが。
「い、イテテ……」
床に倒れ、お尻の部分を手で抑えて痛そうにしているリオ。
一方、 慌てて両手を突っ張って受け身をとった俺。
――うわ、これってもしかして、いわゆる床ドンってやつじゃないですか!?
ていうか、近い! 顔、めちゃくちゃ近い!!!
俺の目と鼻の先に、リオのくっきり二重なタレ目と高い鼻! くっつきそうなくらい近い!
俺の唇の先に、リオのぷっくらした厚ぼったい唇! もう、コンニチハしそうになってる!!!
リオの髪から香っているシャンプーの良いニオイと、リオの呼気から漂うお酒のニオイが入り混じって、なんだかもう変な気分になりそう――。
……ハッ! やばい! 早く離れなくては!
こんなところ、誰かに見られたりでもしたら――。
そう思った次の瞬間、後ろの方でガチャッとリビングの扉が開く音がした。
「えっ!? 2人とも、何してんの!?」
恐る恐る振り向くと……。
そこには、びっくりした様子のマナミさんが。
まずい! フラグ、即回収しちまった!!!
「ドスンって大きな音がしたから心配して見に来たら……。ヨウくん? そんなところでリオちゃんに何をしようとしてるのかなぁ?」
そりゃあ、飲み会中だもんな。
普通に考えて、何も知らなくてこんな状況になってるところ見たら、イラッとするよな。
――これは何とか弁解しなくては!
「あー、えーっと、そのー、じ、実はですね、こ、こいつがいきなり俺を引っ張ってきてですね――」
「んー? ちょっと言ってることがよく分からないなぁ? ウチのリオちゃんに、何てことしてくれてるのかなー?」
マナミさん、怒りを堪えた笑顔で俺のことを見つめてる。
あ、そういえばマナミさんって女の子が好きなんだっけ。
リオのことも相当気に入ってたもんな……。
――もしかして、マナミさんが狙っていたリオのことを、俺が無理矢理奪おうとしてるとか思ってるんじゃ……。
「ちちちちち、違うんです! これは、事故で! 不可抗力で! 俺のせいではなくてですね――」
弁解しようとすると。
倒れ込んだ先にいるリオが、ものすごく怒った表情で、俺のことを睨んでいた。
「――何してくれとるんじゃ、このヘンタイもやしぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!」
「ぐふおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
リオの怒声を浴びながら、俺は顔面に強烈な右アッパーをモロに喰らって吹っ飛んだのであった。
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