第21話 衝撃
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※お酒は二十歳になってから。
※お酒はおいしく適度に楽しみましょう。
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ミホちゃんが放った悪魔の囁きに、思わず耳を疑った。
なんで俺の本がラノベだらけだってこと、知ってるんだよ! あれは、電子書籍リーダーの中にしか入ってないはずだぞ!
いつの間に中身をチェックしたんだ?
――いや、よく考えてみたら。
ミホちゃんのことを1人きりにして、俺の部屋でお留守番してもらったりしてたな。
遅刻したけど寝てたときにも、ミホちゃんが部屋に入ってきて起こしてくれたよな。
いくらでも読むチャンスあったんじゃん!
黙って漫画を読むフリをして、俺の弱みを握るために部屋中をくまなく探ってたのか?
もしそうだったとしたら、もう怖くてミホちゃんのこと部屋にあげられねぇよ!
セキュリティ万全にして、ミホちゃんを要注意人物とみなす!
俺はミホちゃんから遠ざかり、何も知らないぞと言わんばかりの笑顔を取り繕って質問した。
「えーと、ミホちゃん? なんのこと言ってるのかな? お兄ちゃん、言ってることよく分からないなー」
「見たんだよ。全部見ちゃったんだ」
ミホちゃんはニコッと笑っている。しかしどこか闇を感じる笑み。
「だ、だから、何を見たって――」
そう言いかけた途端、ミホちゃんはバッとポケットからスマホを取り出し、俺に画面を突きつけた。
目を凝らしてよく見てみると……。
そこには、確かに俺の部屋の机と電子書籍リーダー、そして、ミホちゃんが言うラノベ作品のタイトルがズラリと羅列された画面が表示されていた。
うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
ちゃんと証拠抑えられてるうぅぅぅぅぅ!!!!!
あまりの衝撃写真。
目を覆って震える俺の手を、ミホちゃんはぐいっと引っ張って、もう一度笑顔で囁いた。
「お兄ちゃん、まだ質問に答えてもらってないよ? 勝負……続けるよね?」
この悪魔! 今まで天使だと思ってたこと、全部取り消す!
怖い! 女子、怖い!!!
どうしよう、でも俺からリオに勝負をやめようって提案した手前、何としてでもこの誘いを断らないと、男として示しがつかねぇ……。
「えっと、こ、このまま続けても、だよ? ミホちゃんも、俺らが飲んだらお酒飲まされ続けることになっちゃうし、ミホちゃんだって、こんなにたくさん飲まされて、勝負なんか続けたくない、よね……?」
恐る恐る、ミホちゃんの意思を再度確認すると。
「……質問を質問で返さないで? アタシがお兄ちゃんに勝負続けるよね、って聞いてるんだよ?」
ミホちゃん、スマホ画面を人差し指でスッとスライドし、別の写真を見せてきた。
そこには――。
ラノベ作品の中でもかなり過激な表現が書かれている作品で、ちょうどお色気シーンのセリフがたくさん羅列された画面が表示されていた。
ぐおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!
これはマズイ! 断固として、情報漏えいを阻止しなければ!!!
「………………はい」
――遂に観念した俺。
自分の保身に走ってしまった。
あぁ、俺、ダサすぎる。男として本当に情けない。
「はぁ!? 何、『はい』って!? また勝負続けるの!? あのときの提案、何だったの!? 訳解んないんですけど! ありえない、ホント無理!!!」
リオ、ブチギレてる。
そりゃそうだよね、そりゃそうさ。
俺が全部悪いんだもの。
こればかりは、ぐうの音も出ねぇ……。
「――ていうか、何を見せられてそんなに焦ってたの? ミホさん、コイツに何を見せたんですか!?」
リオは、ミホちゃんの手から無理矢理スマホを奪い取った。
「おい!ちょっと待て、見るのだけはやめ――」
リオを制止しようと言いかけたが時既に遅し。
リオは画面を見てしまった。
そして、そこに映る写真を見るや否や――、顔を真っ赤に火照らせた。
ああああああああああああああ!!!!!!!!!!
結局、見られてしまったああああああああ!!!!!!!!!!
――それからというもの。
勝負を続行することとなってしまった俺とリオ。
ミホちゃんが『わいわいパラダイス』で理不尽なマスに止まる度に一緒に飲まされ続け、気づいたら相当量のストゼロの缶が空いていた。
そしてもうすぐゲームも終盤に差し掛かる、というところで、みんなの酔い具合もかなり高まっていた。
悪魔の囁きを受けたり衝撃写真を見せつけられたせいで、俺は序盤の酔いが一気に冷めたこともあってまだ正気を保っていられている。俺、意外とお酒には強いのかも?
ハルカさんはお酒がそこまで強くなかったのか、エリカさんの肩にもたれかかってウトウトしている。かなり眠そうだが、エリナさんとくっつくことができて幸せそうな顔だ。
エリカさんは、サイコロを振ったり、駒を進めたり、という特に面白みのない1つ1つの動作をするだけで、ケラケラと笑い始める。これが笑い上戸というやつか。
マナミさんは終始ヘラヘラとしているものの、全然まだ飲めそうな顔をしてゲームを誰よりも楽しんでいる。何なら、誰にも指示されてないのに1人でまだ残っている缶ビールをぐびぐびと飲んでいる。この人、相当お酒強いぞ……!
ミホちゃんは、あれだけたくさん俺達と飲んだにも関わらず、未だにケロッとした顔でどんな指示を受けても忠実にゲームをこなしている。もしかして、元々自分がお酒に強いことを隠しながら、リオの勝負を受け入れたのでは……?
そして、肝心の勝負を挑んだリオ。もうフラフラになっていて、目もうつろだ。そりゃそうだよな、お前、お酒あんまり飲んだことなさそうなリアクションだったもんな。普通ならそうなるよ、こんだけ飲まされちゃ。
サイコロを振ったミホちゃんが止まったマスは、自分で飲むマス。
例のごとく3人でストゼロを飲んだところで。
リオが「トイレ行くー!」と言い出して立ち上がった。
かと思うと、かなりフラフラしていて普通に立っていられない。
歩き出そうとした瞬間、グラっと転び、ソファに倒れてしまった。
どうやらまともに歩けないらしい。
どんだけ無理して飲んでたんだよ!
その様子を見ていたマナミさん。
「リオちゃん、大丈夫ー? トイレに連れて行くときは、バディの人が連れていくって決まりだから、ヨウくんよろしくー!」
え? 俺が連れて行くんですか?
不本意だが、まぁ、仕方ない……。
「ほら、行くぞ」
リオを起こそうと腕を引っ張ると、抵抗してきた。
「触んな、ばか! キモすぎ!」
「いや、俺だってごめんだわ! でもお前、フラフラで歩けないし、仕方ねーだろ」
「うっさい! 離せ!」
リオは無理矢理腕を振りほどいて立ち上がったが、またソファに転んでしまって、なかなか立ち上がれない。
見かねた俺は、リオの腕を担いで肩にかけると、身体を支えながらトイレに向かって歩き始めた。
細くてモデルみたいな容姿だからか、全然重いと感じない。
それよりも、ぴったりTシャツのおかげで強調されているたわわな柔らかいものが、俺の肋骨あたりにふわふわと当たってきている。
肯定するのは悔しいけど、バディ制にしたマナミさんん、ナイス!
この館の1階のトイレは、リビングを出て左の螺旋階段の奥にある。
廊下に出たところで、リオを担ぎながら歩いていく途中、俺は気になっていたことを質問した。
「なぁ、何であんなにミホちゃんに突っかかってたんだ?」
「だって、アンタのことお兄ちゃんお兄ちゃんって、言い続けるんだもん」
「んー、俺がお兄ちゃんって呼ばれるのが、そんなに嫌か?」
「イヤ! すごくイヤ! だって――」
トイレのドアの前に差し掛かったところで、担がれていたリオが俺から離れた。
「だって、アンタだけお兄ちゃん呼ばわり、ずるいじゃん!」
……は? アンタだけ?
「えーと、つまり、どういうこと?」
「だから! ワタシだって、お姉ちゃんって呼ばれたいの! アンタだけずるい! ワタシだって、妹が欲しいもん!」
――同い年の御学友も、性癖をこじらせている人でした。
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