第20話 協力

***

※お酒は二十歳になってから。

※お酒はおいしく適度に楽しみましょう。

***


 マナミさんがゴクリと飲み干した後。



 エリナさんがサイコロを転がした。

 出た目は、4。ハルカさんと同じ目だ! 

 『好きな人にお酒を飲ませることができる』マス。誰を指名するんだろうか……。



「ん~、じゃあ、この家のこと好きになってほしい、って意味も込めて! ヨウくん、飲もっか!」



 って、えええええ!? 俺っすか!?


 これ以上飲むのは嫌だ、何とか逃れる方法考えなくては……。



「お、俺はもう充分この館の魅力は伝わってますよ! 初日で好きになりました!」

「嬉しいこと言ってくれるじゃーん! ……そしたら、リオちゃんに飲んでもらおっか!」



 俺に振ってきた時限爆弾は、リオに手渡された。 

 ――待てよ? リオが飲むってことは、バディを組んでる俺も飲まなきゃいけないやつじゃねーか! どっちにしろアウトじゃん!



 横を見ると、リオがまた鬼の形相で睨みつけている。ひいぃ!


 これは何ともしてでも、俺ら2人が飲まないようにうまく誘導しなくては……。




 リオが小声で耳打ちしてきた。


(アンタ、自分の指名を避けるとか、マジで無理なんですけど! もうホントにキモい、無理!)

(――し、仕方ないだろ! 異常なペースで酒大量に飲まされてるんだぞ? 正直、限界どこまで飲めるかわからないけど、このままだとホントに潰れちまうわ。お前だって、こんな頻繁に飲みたくないよな?)

(そ、そりゃあ、できれば避けたいけど)


 リオも無理していたのだろうか。やはり飲むのをためらっているようだ。


(でも、バディ制のおかげで、2人とも飲まなきゃいけなくなる。……だから、俺に良い考えがある。上手く行けば俺ら2人とも飲まなくて済むようになると思うんだ。ここは、お互い協力しないか?)

(は? アンタと協力? ……内容次第では、考えてあげなくもないけど)


 よし、ノッてきた!


(よし、いいか? この飲み会において俺らの最大の敵は、ミホちゃんだ。けど、お前が言い出した意味の分からない競争のせいで、誰が飲んでも得をしない設計になっちまってる。だから、この無意味な競争をすぐに終わらせて、ミホちゃんが飲まざるを得ないような場をたくさん作るんだ。そうすれば、俺らも巻き添え喰らわずに、ミホちゃんだけ戦闘不能にできるだろ?)


 俺がこの数秒で思いついた苦肉の策、どう捉えてくれるか――。


(……アンタ、ホントに性根が腐ってるね。こんなにアンタを可愛がってくれてるミホさんに、そんなひどいこと考えつくなんて、キモすぎるんですけど)


 確かに、ミホちゃんには悪いと思ってるけど! 

 お前の意味のわからない競争心が無ければ、ミホちゃんだって火がつくことなかったんだぞ!?


(まぁ、でも、アンタの言うことも一理あるし……。分かった、今回だけは協力してあげる。だからとにかくもう、ワタシたちが飲ませられないようにちゃんと動きなさいよね)



 おお、なんとか理解してもらえた! さすがに自分にも非があることを認めたか。


 よーし! ここからは! 陰キャラ生活で性格もひん曲がった俺が大活躍してやるぜ!




「リオちゃーん? 飲めないのかなー?」


 エリナさん、俺たちのコソコソ話す様子を見ていたが、待ちきれないと言わんばかりに煽ってくる。


 俺は、意を決してハルカさんの方を向き、会話を遮った。



「あ、あのー、ハルカさん? エリナさんが好きな人、まさかのコイツみたいですよ? えーと、つまり、エリナさんが好きな人は、コイツのままで良いんですかね……?」


 事務室でエリナさんと会話してたときにヤキモチを妬いていたハルカさんなら、この状況でもエリナさんが好きな人がリオだったことに対して妬いてるに違いない。


 そう思って、勇気を振り絞って発言したものの……。



 ハルカさん、俺の方をバッと見て鋭い眼差しで睨みつけてきた。


 

 ――あ。これは、やっちまった。


 俺、後でハルカさんから罰を喰らうに違いない。

 こんな冷酷なハルカさんから罰なんて、ヤバイやつに違いない!

 


 ――ハルカさん、顎に手を添えて何やら考えている。


 しばらくすると、エリナさんの方を向いて、まるでチワワのような困った顔をして、エリナさんの手を取った。


「エリナさん、本当にエリナさんはリオさんがお好きなんですか? ……私、すごく悲しいです。常にエリナさんのために何でもこなしてきました。こんな私じゃだめなんですか? もっと尽くさなきゃだめですか? エリナさんの1番じゃなきゃ、私ゼッタイ嫌です!」

「ええっと、ハルカ、いい? コレはゲームだから――」

「ゲームだとしても! 私のことを指名してくれなきゃ嫌なんです!」


 ハルカさん、全力でエリナさんに情で訴えた。



 よっしゃ!!! 作戦成功!!!



 俺とリオは顔を見合わせ、二人してニヤッと口角を上げた。


 リオの背中越しに見えるミホちゃん、俺たちを見て「やられた」と言わんばかりの顔をしている。



「ハルカ、わかった。わかったから落ち着いて。リオちゃんじゃなくて、ハルカに飲んでもらうから!」


 エリナさんは苦笑いすると、ハルカさんのコップにストゼロを注ぎ込んだ。


 ハルカさんは先程の困った表情から一変、ものすごく笑顔になり、ごくごくと飲みだした。



 この様子を見たリオ、ミホちゃんへ追撃のミサイルを投下!


「ミホさん、もうお互い競争するの止めませんか? 考えてみたんですけど、ワタシたちはゲーム初心者なので、アタシたちは必然的にたくさん飲んでしまうことになると思うんです。そうすると、飲み比べ競争しているミホさんのことも飲ませてしまうことになりますよね? ……ワタシから言い出したことなので、もう止めたいって言うのは、ワタシの仕事かなと思い、言いました。……どうですか?」



 よし! リオ、よく言った! 


 この流れで、俺達の様子を見ていたマナミさんがミホちゃんに「おーい、バディ制だから忘れないでねー」と煽ってきた。


 マナミさん、ナイスタイミング! マナミさんに「バディ制」と言い放ったミホちゃんに特大ブーメランが返ってきた!!




 してやられた、といった表情で、しばらく悔しそうにうつむいていたミホちゃん。

 

 すると、バッと顔を見上げ、注がれたストゼロを一気に飲み干すと、リオに向かって反抗的な態度で歯向かい出した。


「リオちゃん、いいのかなー? このままだとアタシはずっと、お兄ちゃんのこと『お兄ちゃん』って、呼び続けるよ? この呼び方、止めさせたいんじゃなかったのー?」

「そ、それは……」



 リオ、急に考え込む。


 おい! そんな訳のわからないプライド、捨てちまえよ! 俺はどっちでも良いから! ……ホントは少し惜しいけど。



 ミホちゃんは考え込んでいるリオを見るやいなや、立ち上がって俺の席の後ろに回り込む。

 ポンッと俺の両肩に手を添えた。



 えええ! 俺。女の子に後ろから肩を触られてる? 何されるんだろ、ドキドキする! やべぇ、心臓バクバクしてきた!



「こういうのはー、お兄ちゃんに決めてもらおうよ! ねぇねぇ、まだ勝負は続けるよね、お兄ちゃーん?」


 ミホちゃんが後ろから俺の横顔を覗き込んできた。



 近い! ミホちゃん、顔、近いって!

 くっついてないけど、ミホちゃんの体温が伝わってくる!


 何なんだ、このシチュエーション!


 めっちゃドキドキするじゃねぇか!




 ――天使が甘い誘惑をしてきたと思った途端、耳元で衝撃の一言がミホちゃんから放たれた。



(うんって言わなかったら、お兄ちゃんが持ってきた本、女の子がえっちなことをさせられる本ばっかりだって、みんなに言いふらすからね)





 ――悪魔のような囁き。


 高まっていたテンションと酔いが一気に冷めた。


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