第19話 不可抗力
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※お酒は二十歳になってから。
※お酒はおいしく適度に楽しみましょう。
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一気にビールを飲んだせいか、胃がいきなり膨れ上がってびっくりしているようだ。
バディ制のせいで、無理矢理飲まされたときにふと思った。
このままじゃ、競争心が強くて煽ってばかりいるリオに巻き込まれて、俺もひたすら飲まされることになる。
俺の身体も持たない気がする。
まずい、リオを何とか止めなくては……。
「な、なぁ、これ以上、人のこと煽って飲ませるの、無しにしない?」
「は? 何でワタシがアンタの言うこと聞かなきゃいけないわけ?」
「いや、だってお前のせいで、無関係の俺が飲まされてるんだぞ? これ以上お前が自滅するようなこと、しないでほしいんだけど――」
「ワタシが自滅? 何言ってんの? アンタがお兄ちゃんとか言われてるのが悪いんじゃない!」
えええ!? 逆ギレですか!? しかもその原因、俺の不可抗力なんですけど!?
だめだ、こいつを説得するのは諦めよう……。
とりあえず、この『ワイワイパラダイス』に負けなきゃいいんだ。よし、勝とう。頑張ろう。
マナミさんからサイコロを手渡された。
「じゃあ端っこにいるヨウくんからスタートしよっか! はい、サイコロ回してー」
初見スタートで1番目に振るのはちょっと怖いが、言われたとおりサイコロを振ると、3の目が出た。
手渡された駒を3つ進めて、マスに書いてある文章を読んでみると……。
「えーと、『喉が乾いた。とりあえず飲む』。ん? とりあえず飲む? 一体何を?」
思わず困惑していると。
理解が追いつく前に、リオ以外のみんなが一斉に声を揃えて騒ぎ出した。
「「「「いぇーい! とりあえず飲む! とりあえず飲む!」」」」
何を騒いでるんだこの人たちは!?
マナミさんは、「とりあえず飲む!」と言いながら、ビニール袋から500mlのロング缶を取り出す。
俺とリオの前には紙コップが支給され、マナミさんから8分目くらいまで缶に入った液体が注ぎ込まれた。
「えーと、マナミさん、それ、何ですか?」
「ん? ストゼロだけど」
ス、ストゼロ!?
それって、マナミさんがリビングに入ってくるとき、へべれけになりながら飲んでたやつですよね?
「まぁストゼロなら、美味しいし飲みやすいし、ぜんぜん平気っしょ?」
何が平気なのかよく分からない。
缶のラベルをよく見てみたら、無糖、アルコール度数9%って書いてあるし。
それ、CMで見ました。飲むとガツンとくる、で有名なやつですよね?
「はい、じゃあ、2人とも紙コップ持って! とりあえず飲む! とりあえず! とりあえず飲む!」
とりあえず飲む、というのは飲ませるときの掛け声らしい。
みんなが一斉にリズムよく拍手しながら、俺らを見て「とりあえず飲む!」と煽ってきた。
ちらっと横を見ると、リオが鬼の形相で俺を睨んでいる。
ひぃっ! ペアになってしまってすみません!
覚悟を決めて飲む俺たち。
飲んでみると、さっきのビールよりかは全然飲みやすく、スッと入ってきた。
でも胃のピリピリ感と、ガツンと来るアルコールの味は断然こっちの方が強い。なんだろう、頭の中で、アルコールがギュルギュルっと高速で巡ってくる感覚、っていうのかな?
半分くらい飲んで紙コップを置いて横を見ると、リオはまさかの全て飲み切っていた。
こいつ、一気に飲むことしか脳にないのか!?
こんなモデルみたいな美人なくせして、飲み方といい喋り方といい、品が感じられん……。
「あれ? お兄ちゃん、半分しか飲めてないよ? それでいーの?」
「うっわ、何でアンタ半分しか飲んでないの? アンタが踏んだマスなんでしょ、早く飲みなさいよ! ――ていうか、お兄ちゃん呼び止めてください!」
ミホちゃんとリオから、怒涛の煽りラッシュ。
何で半分じゃ許してもらえないんだよ! 容赦ねえ!
仕方なく、残りの半分もぐいっと飲み干した。
くぅー、ガツンとくる~!
俺が飲み干したところを見届けると、リオはコロコロッとサイコロを振った。
出た目は……1。
「えーと、『ワイワイするために目覚めの一杯』。ってことは……」
ふと顔を上げると、マナミさんがニコニコしながら、ストゼロの缶を持って俺たちのコップに注いできた。
また飲むのかよ! 今飲んだばっかりなんですけど! 休憩させてくれよ!
ちらっと横を見ると、リオは俺の目線に気づいているにも関わらず、わざと目を背けてグビグビとコップを一気飲みした。
おい! 俺にやってきたこと、またブーメランで返ってきてるぞ! ていうか、また全部飲み干してるんじゃねーよ!
……何か言われるのがイヤなので、俺も一気に飲み干した。
あー、頭がふわふわしてきた。
このままのペースで飲むと、なんだかやばそうかも。
次はミホちゃんの番。
サイコロを振ると、俺と同じ3の目。
つまり、『喉が乾いた。とりあえず飲む』だ。
マナミさんからタプタプとストゼロを注がれると、ミホちゃんとハルカさんは2人でお互いの紙コップをコツンとぶつけ、「かんぱーい」と言いながらゴクッと飲み干した。
うおお、この2人、ナチュラルに飲み干してやがる。さすが、ERINA’S HOUSEの住人だ……。
次はハルカさんの番。
サイコロを振ると、4の目。
出た目を見ると、『好きな人にお酒を飲ませることができる』と書かれていた。
なんという理不尽なルール!!!
そしてもちろん、ハルカさんが好きな人、というのは……。
「エリナさん! 大好きです!」
ハルカさん、ささっと手際よくストゼロを紙コップに注ぎ込むと、エリナさんに勢いよくバッと差し出す。
エリナさんはそれを受け取ると、前髪をかき上げながら「もうー仕方ないなぁ」とまんざらでもない顔をして、一気に飲み干した。
ここの人たち、何でこんなに一気に躊躇なく飲めるんだ、おかしくないか?
こんなのまだ序の口だって言わんばかりのペースだよな?
目の前で行われている光景を見て怯えていると。
「バディ制」
ミホちゃんがポツリと単語を発すると、ちらっとマナミさんの方を見て「アナタは飲まないんですか?」と目で訴えていた。
「えへー、バレちゃったかー。さすがミホだねー」
マナミさん、黙って1人で紙コップにストゼロを注ぎ、ぐいっと飲み込む。
飲み干すと、テヘッと笑った。
この人、バレなければ飲まないつもりでいたのか!? 策士なのか!?
思い返せば、俺もリオもマナミさんも、ミホちゃんの煽りを受けて飲まされている。
この場で一番気をつけなきゃいけない相手は、ミホちゃんなのかも……。
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