第19話 不可抗力

***

※お酒は二十歳になってから。

※お酒はおいしく適度に楽しみましょう。

***


 一気にビールを飲んだせいか、胃がいきなり膨れ上がってびっくりしているようだ。



 バディ制のせいで、無理矢理飲まされたときにふと思った。

 

 このままじゃ、競争心が強くて煽ってばかりいるリオに巻き込まれて、俺もひたすら飲まされることになる。

 俺の身体も持たない気がする。


 まずい、リオを何とか止めなくては……。



「な、なぁ、これ以上、人のこと煽って飲ませるの、無しにしない?」

「は? 何でワタシがアンタの言うこと聞かなきゃいけないわけ?」

「いや、だってお前のせいで、無関係の俺が飲まされてるんだぞ? これ以上お前が自滅するようなこと、しないでほしいんだけど――」

「ワタシが自滅? 何言ってんの? アンタがお兄ちゃんとか言われてるのが悪いんじゃない!」



 えええ!? 逆ギレですか!? しかもその原因、俺の不可抗力なんですけど!?



 だめだ、こいつを説得するのは諦めよう……。

 とりあえず、この『ワイワイパラダイス』に負けなきゃいいんだ。よし、勝とう。頑張ろう。




 マナミさんからサイコロを手渡された。


「じゃあ端っこにいるヨウくんからスタートしよっか! はい、サイコロ回してー」


 初見スタートで1番目に振るのはちょっと怖いが、言われたとおりサイコロを振ると、3の目が出た。


 手渡された駒を3つ進めて、マスに書いてある文章を読んでみると……。


「えーと、『喉が乾いた。とりあえず飲む』。ん? とりあえず飲む? 一体何を?」



 思わず困惑していると。


 理解が追いつく前に、リオ以外のみんなが一斉に声を揃えて騒ぎ出した。


「「「「いぇーい! とりあえず飲む! とりあえず飲む!」」」」



 何を騒いでるんだこの人たちは!?



 マナミさんは、「とりあえず飲む!」と言いながら、ビニール袋から500mlのロング缶を取り出す。

 俺とリオの前には紙コップが支給され、マナミさんから8分目くらいまで缶に入った液体が注ぎ込まれた。



「えーと、マナミさん、それ、何ですか?」

「ん? ストゼロだけど」


 ス、ストゼロ!? 

 それって、マナミさんがリビングに入ってくるとき、へべれけになりながら飲んでたやつですよね?


「まぁストゼロなら、美味しいし飲みやすいし、ぜんぜん平気っしょ?」


 何が平気なのかよく分からない。

 缶のラベルをよく見てみたら、無糖、アルコール度数9%って書いてあるし。

 それ、CMで見ました。飲むとガツンとくる、で有名なやつですよね?



「はい、じゃあ、2人とも紙コップ持って! とりあえず飲む! とりあえず! とりあえず飲む!」



 とりあえず飲む、というのは飲ませるときの掛け声らしい。

 みんなが一斉にリズムよく拍手しながら、俺らを見て「とりあえず飲む!」と煽ってきた。


 ちらっと横を見ると、リオが鬼の形相で俺を睨んでいる。

 ひぃっ! ペアになってしまってすみません!



 覚悟を決めて飲む俺たち。

 飲んでみると、さっきのビールよりかは全然飲みやすく、スッと入ってきた。

 

 でも胃のピリピリ感と、ガツンと来るアルコールの味は断然こっちの方が強い。なんだろう、頭の中で、アルコールがギュルギュルっと高速で巡ってくる感覚、っていうのかな?



 半分くらい飲んで紙コップを置いて横を見ると、リオはまさかの全て飲み切っていた。


 こいつ、一気に飲むことしか脳にないのか!?

 こんなモデルみたいな美人なくせして、飲み方といい喋り方といい、品が感じられん……。



「あれ? お兄ちゃん、半分しか飲めてないよ? それでいーの?」

「うっわ、何でアンタ半分しか飲んでないの? アンタが踏んだマスなんでしょ、早く飲みなさいよ! ――ていうか、お兄ちゃん呼び止めてください!」


 ミホちゃんとリオから、怒涛の煽りラッシュ。

 何で半分じゃ許してもらえないんだよ! 容赦ねえ!


 

 仕方なく、残りの半分もぐいっと飲み干した。

 くぅー、ガツンとくる~!




 俺が飲み干したところを見届けると、リオはコロコロッとサイコロを振った。

 出た目は……1。


「えーと、『ワイワイするために目覚めの一杯』。ってことは……」


 ふと顔を上げると、マナミさんがニコニコしながら、ストゼロの缶を持って俺たちのコップに注いできた。



 また飲むのかよ! 今飲んだばっかりなんですけど! 休憩させてくれよ!


 ちらっと横を見ると、リオは俺の目線に気づいているにも関わらず、わざと目を背けてグビグビとコップを一気飲みした。



 おい! 俺にやってきたこと、またブーメランで返ってきてるぞ! ていうか、また全部飲み干してるんじゃねーよ!



 ……何か言われるのがイヤなので、俺も一気に飲み干した。


 あー、頭がふわふわしてきた。 

 このままのペースで飲むと、なんだかやばそうかも。




 次はミホちゃんの番。

 サイコロを振ると、俺と同じ3の目。

 

 つまり、『喉が乾いた。とりあえず飲む』だ。


 マナミさんからタプタプとストゼロを注がれると、ミホちゃんとハルカさんは2人でお互いの紙コップをコツンとぶつけ、「かんぱーい」と言いながらゴクッと飲み干した。


 うおお、この2人、ナチュラルに飲み干してやがる。さすが、ERINA’S HOUSEの住人だ……。




 次はハルカさんの番。

 サイコロを振ると、4の目。

 

 出た目を見ると、『好きな人にお酒を飲ませることができる』と書かれていた。



 なんという理不尽なルール!!!

 そしてもちろん、ハルカさんが好きな人、というのは……。


「エリナさん! 大好きです!」


 ハルカさん、ささっと手際よくストゼロを紙コップに注ぎ込むと、エリナさんに勢いよくバッと差し出す。


 エリナさんはそれを受け取ると、前髪をかき上げながら「もうー仕方ないなぁ」とまんざらでもない顔をして、一気に飲み干した。

 


 ここの人たち、何でこんなに一気に躊躇なく飲めるんだ、おかしくないか?

 こんなのまだ序の口だって言わんばかりのペースだよな?


 目の前で行われている光景を見て怯えていると。



「バディ制」


 ミホちゃんがポツリと単語を発すると、ちらっとマナミさんの方を見て「アナタは飲まないんですか?」と目で訴えていた。


「えへー、バレちゃったかー。さすがミホだねー」


 マナミさん、黙って1人で紙コップにストゼロを注ぎ、ぐいっと飲み込む。

 飲み干すと、テヘッと笑った。



 この人、バレなければ飲まないつもりでいたのか!? 策士なのか!?



 思い返せば、俺もリオもマナミさんも、ミホちゃんの煽りを受けて飲まされている。


 この場で一番気をつけなきゃいけない相手は、ミホちゃんなのかも……。

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