第18話 バディ制

***

※お酒は二十歳になってから。

※お酒はおいしく適度に楽しみましょう。

***


 

 全員がソファに着席したところで、マナミさんは意気揚々と声をあげた。


「よーし、じゃあみんなでワイワイランド、やりますか! はい、みんな自分の駒持ってねー」


 手際よく、みんなに駒が配られていく。

 このすごろくの駒なのかな?お酒の瓶みたいなかたちしてるんだけど。

 人生ゲームとかとは違って、お金とかは渡されないんだ。


 これって、どういうゲームなんだろう?

 気になった俺は、マナミさんに質問した。


「あのー、これって、どういうゲームですか?」

「あぁ、このすごろく知らないんだ? ま、やっていけば分かるから、大丈夫っしょ! でも6人だと効率悪そうだから、バディ制にしちゃおっかな」



 ちょっと! やり方不明なまま遊ぶのはハメられそうな気がして怖いんですけど!

 ていうか、効率悪いからって理由で2人1組制にしちゃっても平気なくらい、このゲームのルールはガバガバなんですか?

 


 こうして、コの字型に座っていた席順に3チームに分かれた。


 見るからに酒が強そうなマナミさん、エリナさんペア。

 ちょっと先が読めないハルカさん、ミホちゃんペア。

 そして席順だから仕方がないが……俺、リオペア。



 うっわ、リオ、めっちゃ不服そうな顔してるし。

 俺だって同じ気持ちだわ!


「何でワタシがこいつなんかとペアにならなきゃいけないんですか? マジ無理なんですけど」

「え~アタシお兄ちゃんと同じペアが良かったなぁ~、リオちゃん代わろっか?」

「ちょっと、まだワタシたちに勝ってないのに、お兄ちゃんって呼ぶの止めてくれます? ……勝ったら代わってあげてもいいですけど」



 えええ……。リオ、お前言ってることめちゃくちゃだぞ。


 そんな言い合いをしている最中、マナミさんはビニール袋から缶ビールを取り出すと、手際よく全員にパッパと配っていった。



 このビニール袋の中、缶ビールも入ってたんだ。



「はい、ペアも組んだってことだし、とりあえずゲームスタートってことで! せーの、かんぱいワイワイ!」


「「「かんぱいワイワイ!」」」


 

 かんぱいワイワイって何だよ! それがこのゲームの乾杯の音頭か?


 エリナさん、ハルカさん、ミホちゃんはプシュッと勢いよく缶ビールのフタを開けて、グビグビと飲みだした。



「ぷっはー! これだよこれ、これが飲みたかったんだよ~!」


 マナミさん、今にも天に召されそうな表情をしながらさぞ美味しそうに飲んでいる。

 この人、さっきまでさんざんストゼロ飲んでたよな?



 呆気に取られていた俺とリオだが、みんなが飲んでいるので仕方なく、見様見まねでビールのフタを開け、ごくっと飲み込んでみた。



 小学生の頃に試しに味わって以来、人生2度目のビール。

 

 味は……やっぱり、苦いし、渋い。

 思わず顔も渋くなる。


 ちらっと横を見ると、同じようにリオも渋い顔をしていた。こいつも人生初か?



「あ、もしかして君らビール初めて? じゃあ、沢山飲んで慣れないとだねぇ。ねー、ハルカ?」

「はい! エリナさんが言うことは間違いないです」


 エリナさん、絶対服従のハルカさんに間違いないと言わせて、説得力を増させようとしてねーか? 俺らに早く沢山飲めって、遠回しに言ってるよな?



 リオが渋い顔をしている様子を見ていたミホちゃん。リオがテーブルに置いた缶ビールを取り、持ち上げてゆらゆらと振り出した。

 何やら重さを図っているようだが……。



「あっれぇー? リオちゃん、ぜんぜんビール減ってないよ? アタシ、もう半分飲んじゃったけど? こんな調子で、アタシに勝てるのかなぁー?」



 うわ、さっきまで煽られてたミホちゃんが遂に反撃し出した!

 ていうかその発言、今までの優しかった天使が言うようなセリフじゃ無くね? むしろ悪魔じゃね!?



 煽られたリオはムキになったのか、ミホちゃんに取られた缶ビールをバッと奪い取ると、缶を口につけ、真上に持ち上げてゴクゴクと飲みだした。


 うわ、すげぇ飲みっぷり……。コレ、全部飲み干しちゃうレベルじゃねーか?



 しばらくすると、リオはスッと口から缶を離し、テーブルに缶をコンッと叩きつけた。

 この乾いた音は、もしかして全部飲み干したのか!?

 なんだか辛そうな顔をしているけど……。


「うっぷ……、全部、飲みましたよ……。あれ、ワタシは全部飲んだのに、ミホさん、全部飲まないんですか?」


 苦しそうだが、ドヤ顔を決めるリオ。

 それを見たミホちゃんは「ぐぬぬぬぬ……」と悔しそうな顔をすると、同じく自分が飲んでいた缶ビールをゴクゴクと飲みだした。



 なんちゅー戦いだ。煽りに煽った挙げ句、2人とも飲ませるために煽った発言が、ブーメランのごとく自分に返ってきている。



 ミホちゃんも同じく全部飲み干したのか、コンッとテーブルに缶を叩きつけると、それを見ていたマナミさんが「いぇーい」と拍手をした。


「2人とも、早速いい感じに飲むペース飛ばしてるねー! さ、横のバディも飲んで、ほら早くー!」



 へ? 横のバディも飲んで? どういうこと!?



「えっと、マナミさん? 横のバディも飲んで、って俺のことですか? 何で飲まなきゃいけないんですかね?」

「何でって、そりゃあバディだからでしょ! バディは運命共同体なの。片方がお酒を飲み干したら、もう片方も飲み干さないと、フェアじゃないでしょ?」




 はいーーー!?!? 何だよ、その理不尽な設定は!!!


 ぜんぜんフェアじゃねーじゃねぇか!!!



「はい、ということで、ヨウくんとハルカさん、飲んでー!」


 マナミさん、すっごく楽しそう。


 エリナさんは、ハルカさんの方を見てニコニコしながら「ミホのバディのハルカも飲んでこー」と煽るように拍手をすると、ハルカさんは「はい! 飲みます!」と言ってゴクゴクと飲みだした。



 この場の状況についていけてない俺。


 アタフタしていると、横からリオが「ドスッ」と肘打ちしてきた。

 ――痛ぇ!


「早く飲んで! 飲まないとかキモいから! ミホさんに負けてるんだよ? 早く飲んで?」


 なんでそんなキツく当たるの? 俺、何も悪いことしてないのに!


「お兄ちゃん、飲んでなくない? ウォウウォウ?」


 ミホちゃんが俺の事を天使のような眼差しをしながら手を叩いて煽ってくる。言ってる事、悪魔的じゃない? ウォウウォウ?





 執拗に煽られた俺、意を決して缶ビールを斜めに向けて仕方なく飲み始める。


 まずい……。なんでこんなまずいものを飲まされなきゃいけないんだ。

 グビグビと飲んでいるが、炭酸が思ったよりも強くて、含んだ口と胃の中で爆発してきそうだし。

 


 頑張って飲んでいると。


 横からリオが「おっそい!」と言い出し、俺の缶を斜めからグイッと逆さに持ち上げた。



 おい! やめろ! 溢れるだろうが! 俺のペースで飲ませてくれよ!


 かなりの勢いで入ってくるビール。炭酸のせいで逆流しそうになっているのを、次々と口の中に注ぎ込まれるビールを飲み込んで無理矢理ねじ伏せ、なんとか飲みきった。



 ――うわ、ものすごく炭酸が逆流してくる! だめだ、堪えきれねぇ!



「――ぐえぇぇぇぇっっっっっぷ!!!」



 思わず、大量大音量のゲップが出てしまった。


 やばい! さすがにコレは引かれたか!?




……恐る恐る周りを見渡すと、みんなが飲み切った俺を見て「おぉ~」と拍手していた。




 どうやらこのワイワイパラダイス下においては、ゲップなんかはどうでもよく、飲みきることが正義らしい。

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