第13話 女子の部屋

 爆発寸前の時限爆弾を運び出すかのように、部屋にある本棚を運び出すことになった俺。

 

 リオさんの部屋に踏み入れた。

 うおお、初めて女子の部屋に入った!!!



 玄関のすぐそばには俺の胸の高さくらいまである、細身の冷蔵庫が置いてあり、その上にはコンパクトなテレビがちょこんとおいてある。

 部屋の空間を見えにくくするための工夫なのだろうか。

 

 片方の壁側は本棚と本だらけ。

 もう片方の壁際にはシングルベッドが置かれており、壁にはラノベヒロインが微笑んでいるポスターたちがずらりと並んでいる。


 冷蔵庫とテレビが遮っていて玄関からはちゃんと見えてなかったが、ベッドの裏には黒いイスとメタリックな黒いデスクが。


 デスクの上には……聞いたことがあるブランドの大きなモニターが2台、そしてイカツいマウスとキーボード、PCハード。かなり大きい。

 そしてデスクの隙間には、所狭しと可愛らしい女性キャラのフィギュアが敷き詰められている。


 どう見ても、勉強とか作業用じゃなくて、PCゲーム用だよな、これ……。


 ミホちゃんがイスに座って、なんだか楽しそうにクルクルと回っている。

 ていうかイス! よく見たら、ゲーミングチェアじゃん!




 なんだろう。この部屋、全然女子っぽい感じがしねぇ!!!



 まじまじと部屋を眺めていると。


「ちょっと! 何ジロジロ部屋のなか見てんの! キモいから止めてくんない!? ていうか、早くその本棚運んでよ!」


 俺はリオさんに怒られてハッと気付き、自分の背丈近くある本棚をよいしょと持ち上げた。


 ぎりぎり一人で運べなくはない重さ。正直重いけど、2人の女の子が見ている手前、弱音を吐くことはできない……!


 歯を食いしばって本棚を持ち上げると、転ばないようにゆっくりと玄関に向かっていった。



「チンタラしてないで早く運んでよ、ホント無理なんだけど!」


 リオさん、慎重に運ぶ俺を見て苛立っているのか。

 俺の背中をドスン、と蹴飛ばしてきた。


 ――痛ってぇ!


「危っぶねー! ちょっと、転んだらどうするんですか!」

「うっさい! さっさと運んで!」



 くっそ! せっかく運んでやっているのに、なんちゅう仕打ちしやがるんだ、

この女は!


 せっかく仲良くなれると思ってたのに!


 もう、「リオさん」とか敬って呼ぶことやめよう。

 こんなに俺を拒絶する奴に、媚びへつらう必要なんてないよな。



 ――なんとか本棚を部屋の外へ運び出すと。

 

 運び出すやいなや「その本棚、どっかに捨ててきて! マジ無理だから!」と言い放たれ、思いっきりドアを閉められた。



「ふ、ふざけんな! さっきから、それが人にする態度かよ!!!」


 とうとう堪忍袋の緒が切れた俺は、思わずタメ口で叫ぶと「うっさい! キモい!」と言い返された。


 

 ……なんなんだよ、全く。あいつとは仲良くなれそうにないな。



 でもこれで、本棚は俺のモンだ!


 こうして俺は、無事(?)に故・ドルオタ兄貴の本棚の奪還に成功したのであった。

 



 このあともうひと踏ん張りして202号室に運び込み、テレビボードの横に本棚を設置した。


 あとは持ってきた本たちを並べるだけだ。


 ……あ、ミホちゃん、置いてきちゃった。

 ま、女の子同士だから別にいっか。




 無事に本も棚に全てしまい込み、ようやく部屋が片付いた。


 ふぅ、疲れた~~~!

 一旦、2段ベッドに寝転がってみるか。


 

 ――はしごを登って、マットレスに寝転がる。


 うわ、めっちゃ寝心地いいじゃん!

 どこのマットレスを使ってるんだろう。絶対良いやつだよな。

 エリナさんの財力、半端ないな……。



 この館に来てから色んなことが一気に起きたから、めちゃくちゃ疲れたなぁ。


 ……睡魔が襲ってきた。

 だめだ、この後は歓迎会があるんだから、こんなタイミングで寝ちゃいかん。


 壁の時計を見ると、時計の針は短い針が4、長い針が6を指していた。。

 なんだ、16時半か。まだまだ余裕じゃん。

 

 じゃあ歓迎会が始まるまで、ちょっとだけ仮眠するか……。




 俺は気付いたら、深い眠りに落ちていった――。






 ――ちゃん。


 誰かの声がする。誰かに肩をゆすられている気がする。

 けど、眠気が飛ばなくてまぶたが開けられない。



 ――起きて、お兄ちゃん!


 ん? その声は、ミホちゃんかな? 左耳から声がする。

 どうやら俺は右側を向いて、横向きで寝ているらしい。

 

 まだ眠いから、もうちょっと寝かせてよ……。

 


 ――んもう! 起きてってば!


 左頬をぐいっと引っ張られた。

 いててててて!!!



 俺は痛さで思わず目を開けると、ミホちゃんが俺の目と鼻の先で見つめていた。


「あ、やっと起きた」


「……って、うわああああああああああああ!!!!!」



 びっくりしすぎて、思わず飛び起きた。


 近すぎる! 顔、近すぎる!

 心臓バクバクする!


 大きなクリっとしたタレ目が、なんだかすごく大きく見えた!


 ミホちゃんのスッと通った鼻とか、く、唇とか、もうすぐ俺とくっつきそうな勢いだったんですけど!?


 はしごから俺の顔を覗くのは良いんだけど、限度ってものがあるでしょうが!!!




「ちょ、え、何! どうしたの! イキナリびっくりさせないでくれよ……」

「だってお兄ちゃん、ぜんぜんリビングに降りて来ないんだもん」


 ……ん? リビング?


「もう歓迎会、始まってるよ?」


 始まってる、だと?


「え、嘘!? 今、何時?」


 慌てて俺は壁の時計を見ようとするが。すかさずミホちゃんが俺の視線を手で遮る。


「ねぇお兄ちゃん。Hey, Miho. って言って?」

「――へ?」

 

 ミホちゃん、質問と答えが噛み合ってないよ。


「だ~か~ら~、Hey, Miho. 今、何時? って聞いてきてよ!」



 なんだよ、そのAIアシスタントを呼び出すときみたいなセリフは。

 ……よく分からないけど、とりあえず言うしかなさそうだな。


「へ、Hey, Miho. 今、何時?」

「18時30分です」


 抑揚の無い、平坦な口調でMihoは答えた。


「18時30分。ほうほう。……あれ、てことは、30分も遅刻してる!!!」

「はい。集合時刻から、30分経過しています」


 何が楽しいのか、AIアシスタントMihoは相変わらず、無駄に会話をしようと抑揚のない声で言い返してくる。


「うおおおおおおおお!!!!! やべぇ、すぐに行かなきゃ! ちょっと、ミホちゃん、そこ降りて」

「すみません。よくわかりません」


 Miho.はうまく理解してくれなかったようだ。


「い、いいから、そんなモノマネは! 早く降りてって!」

「ふふっ。 すみません。よくわかりません。他にお手伝いできることはありますか?」


 ミホちゃん、遅刻して焦っている俺を見て、明らかに楽しんでやがる。



 俺はミホちゃんを押しのけて急いではしごを降り、「すみません。よくわかりません」と連呼しながら立ち止まるMihoを無理矢理部屋から押し出すと、ぐいっと引っ張って一緒に駆け足で階段を駆け下りた。




 あぁ、ヤバイ。こんなはずじゃなかったのに……。


 寝起きから心臓の鼓動が収まらないまま、リビングの扉の前に到着。

 どうしよう、絶対怒られる……。 


 俺はガチャリと両開きの扉を片側を、ゆっくりと開けるのであった――。

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