第6話 お兄ちゃん
まさか人が亡くなった部屋に住むことになるなんて……。
そんなことを気にしながらも、早速202号室の中に入っていった。
部屋の広さは正方形の6畳だが、壁はコンクリート打ちっぱなしで、間接照明が部屋を照らしている。
かっけぇ! これだけでも陽キャ感あるわぁ!
部屋の入り口側には、コンパクトな冷蔵庫と電子レンジが置かれている。これさえあれば、いちいち共用キッチンにまで足を運ぶ必要もなさそうだ。その横にはクローゼット。
スペースを有効利用するためか、2段ベッドが壁に沿って置かれている。上の部分にはダブルサイズの幅のマットレスが置かれており、180cmの俺でも安心して寝られそうだ。下の部分には簡単な机と引き出し、そして座椅子が置かれている。
屋根の下で勉強したり作業したりする感じか? なんだか秘密基地みたいでワクワクするな!
逆側の壁際には、少し小ぶりな液晶テレビと、ゲームなどが収納できそうなテレビボードが置かれている。
奥の方は大きめな両開きの窓がついている。南向きなので日差しがいい感じに入ってくる。ベランダに出れるようなので、後で出てみよう。
6畳にしてはギュッと詰め込んだ家具のおかげてなんだか狭く感じるが、1から家具を揃えなくて済む、と考えると非常にありがたいし、何よりオシャレだ。
ザ・東京って感じがする!
ありがたい。ありがたいんだけど、ハルカさんに肝心なことを聞かないと……。
「あの、ええっと、前回住んでいた方はどのあたりでお亡くなりに――」
「ああ、ちょうどその2段ベッドの下あたりですかね。当時はソファベッドが置かれていたのですが、そこで眠るように倒れていたようで。おかげでソファベッドが使えなくなってしまったので廃棄したのですが、次の入居者のためにと、オーナーが奮発して2段ベッドと机と座椅子をご購入されました」
えええええ!!! そんなスペースで勉強とかしたくないんですけど!!!
「そ、そうなんですね……。で、でも買い替えていただけて嬉しいです、ありがとうございます」
とりあえず御礼をしたが、正直聞かなければよかったなと後悔。
「では、私は別業務があるのでここで一旦失礼いたします。あ、本日18時から、シェアハウスに住む皆さんでヨウさんとリオさんの歓迎会を開くこととなっておりますので、それまでご自由になさってください。では」
ハルカさんはそう言うと、そそくさと部屋を出ていった。
え? まさかの歓迎会を開いてくれるの!?
開いてくれるのは凄く嬉しいけど、でも、俺が住む部屋は202号室だし?
リオさんみたいにキモがられて、はみ出しもの扱いされたりしないか不安だな……。
とはいうものの、開かれるのはマストみたいだし、18時までは時間があるし。
ネガティブになってないで、とにかく準備だけおわらせるか。
俺はスーツケースから荷物を取り出して身支度をすることにした。
家具家電は必要なかったから、引っ越し業者に荷物運びは頼まずに、この身一つで東京に出てきた。
あとは後で、スーツケースに入り切らなかった荷物が実家から届くはずなんだけど……。
そんなことを考えながら作業していると、部屋のインターホンが「ピンポーン」と鳴った。どうやら、その荷物が早速届いたらしい。
俺は呼び出しに応じ、部屋から出て1階の玄関まで小走りで向かっていくと、宅配業者から荷物を受け取った。
荷物は、ダンボール2箱。
この中に、服やパソコン、そして俺の大切なゲームや漫画たちが入っている。陽キャラになるために断捨離しようと思ってだけど、どうしてもコイツらから離れることができなくて、持ってきてしまった。
とはいえ、ダンボールが結構重い……。もやしっ子の俺は、1箱ずつしか運べなさそうだ。
仕方なく1箱だけ抱えて螺旋階段を登りかけたとき、ちょうどその階段から、また別の住人が降りてきた。
「あーっ! もしかして、新しい住人さん!?」
声をかけられバッと見上げると、なんとも可愛らしい女の子。
身長は女性の平均身長よりも低めだろうか。ノースリーブの白いワンピースを着ていて、細身だけどモチッとした白い肌がなんだか眩しい。
黒髪のショートヘアで、髪を片耳にかけている。耳元で揺れてる大きめのピアスに視線がいってしまう。
大きなクリっとしたタレ目に、困り顔のような眉の向き、スッと通っている鼻もあいまって小動物のような感じが出ていて、まるで子キツネみたいだ。
控えめに言っても、可愛い。ザ・美少女。まるで白い天使が舞い降りてきたみたいだ。
「は、はい! よ、よろしくおねがいしましゅ」
可愛さと緊張のあまり、思わず噛んでしまった。恥ずかしい!!!!!
「あはっ! よろしくおねがいしましゅー。 お名前なんていうの? 大学生?」
笑ったらえくぼができるのか。ますます可愛いじゃねえか。
「あはは……。ひ、日笠ヨウと申します。4月から大学1年生です。」
「ヨウくんね! ――あれ、なんか、よく見たたら、アタシのお兄ちゃんにすっごく似てる気がする……」
え? ノッポさんの、ボボボ、ボクがですか!?
お兄様、ボクなんかが、この天使のような子のお兄様に似てしまって申し訳ございません!!!
「そ、そうなんですね――」
「ねぇ、今度から、『お兄ちゃん』って、呼んでもいい……?」
はい? 何を言ってるんだこの天使は。
「え? えええ? お、俺が、あなたの、お兄ちゃんに――」
「うん。だめ……かな?」
食い気味に言い寄られる。困り顔の眉毛とうるっとした目で見つめられる。
全然意味分かんないけど、こんな顔されちゃ、断れねぇよ……。
「だ、大丈夫、ですけど――」
「やったぁ! あ、そうだ、アタシ、三井ミホ。4月から大学2年生だよ! よろしくね、おにーいちゃん♪」
妹、まさかの歳上かーーーい!!!!!!
東京に上京して早々、陽キャラになるよりも先に、お兄ちゃんになってしまいました。
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