第5話 原因
「じ、事故物件なんて、そんなの聞いてないですよ! なんで言ってくれなかったんですか!」
「お電話口で即決していただいたあと、お伝えしようとしたところすぐにお電話が切れてしまったので、お伝えできませんでした」
うわぁ……。ってことは、聞かなかった俺のせいなのか……?
確かに、あの当時は電話口の相手が女性ってだけで緊張しちゃってたし?
仮押さえしたあと、緊張に耐えられなくてすぐに電話切っちゃったけど?
「あ、あぁ、そういえばそうでしたね……。で、でも、今になって事故物件って教えるのは、ちょっとどうかなぁと思うのですが……」
「ええっと……、私が悪いとでも?」
やばい。顔には出ていないけど、ハルカさんが内面イラッとしている様子がにじみ出ている!
せっかくの東京進出初日。あのモデルみたいな子だけじゃなくて、こんな美人な管理人にまで嫌われるなんて、まっぴらごめんだ!
すみません、怒らないでください!
「い、いえいえいえ! 俺が悪いんです、聞かなかった俺の責任です、ごめんなさい! ……ち、ちなみに、死因は何だったんですか?」
「……202号室は、根っからのアイドル好きの男性が住んでおりました。かなり貢ぎ込んでいたようなのですが、そのアイドルの方が他界してしまいまして。その方は悲しみに暮れた挙げ句、致死量レベルの薬を大量に飲み込んで……。いわゆる、後追い自殺というやつですね」
――えええええ!!! 俺、今からそんな部屋に住むのかよ! めちゃくちゃ怖えーよ!
「えええええ……。だ、だから家賃が安くなってるんですね。ちち、ちなみに、今202号室はちゃんと住める環境になっているんでしょうか?」
「はい、もちろん住めますよ。ただ、この事件があってから、前の住人たちは気味悪がって一斉に退去してしまったんです。残った住民は2名だけ」
なるほど? 話が見えてきたぞ?
こんなにオシャレで豪華な館なのに、家賃も安くなって一気に空き部屋も増えたのは、そういう理由だったのか。
俺は口をぽかんと開けたまま、ハルカさんの話を聞いて「はぁ、なるほど」と気の抜けた相槌をうった。
「そんななか、昨日リオさんが入居してくれました。……そういえばリオさんも昨日からご入居されましたが、この話は知らなかったそうです」
おい!!! だからじゃねえか!!!
202号室って言った瞬間、すごく嫌そうな顔をしてたし?
ここに住む理由、「この館で住めることが気に入ったから」って俺が事故物件だってことを知ってて答えてたとしたら、そりゃあ俺のこと、事故物件好きの変態野郎にしか思えねーじゃん!!!
ていうかこの人、そういうことちゃんと最初から情報開示しろよ!
ああ、もう、最悪だわ……。
「ちなみに、リオさんも4月から、ヨウさんと同じT大学に入学される1年生なので、ぜひ仲良くしてくださいね」
え、まさかの同学年!? あのモデルみたいなキレイな人が!?
……嫌われたっぽいけど、それはテンション上がるな。
――立ち話をしていると、204号室の方のドアがゆっくりと開き、中からリオさんが顔を覗かせてきた。
202号室から204号室までは若干距離があるが、ドア越しに、明らかに不審者を見ているかのような、明らかに嫌そうな顔をしていることだけは分かる。
「ほ、本当に、そこに、その男、住むんですか……?」
「はい、今日からご入居されますよ。ヨウさんも、リオさんと同じ大学に通う18歳です。お互い仲良くしてくださいね」
一瞬の間が生まれる。
なんだろう、この変な間――。
「――無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理、無理ーーーーーッ!!!!!!」
――バタンッ!と勢いよく204号室のドアが閉まった。
どうやら、俺は完全に拒絶されしたらしい。
これから御学友になる俺のことを、イカれたサイコパス野郎だと思ってやがる。
……「無理」って連呼してたけど、「無駄」に変換したら、人気少年漫画のキャラクターが敵を殴りまくってるときのセリフみたいだな。
俺のメンタル、フルボッコにされたよ。アリーデヴェルチ。
あれ、何でだろう。なんか、冷静に判断できるようになってる自分がいるわ……。
ヒロインキャラ確定演出だった子に、仲良くなる前から思いっきり嫌われちゃってるんですけど、この先どうすればよいのでしょう。
そんなことを考えながらポカンとしていると、ハルカさんはバッと俺の方を振り返り、まるで何事もなかったかのように「さぁ、部屋をご案内しますね」と言い始めた。
おいおいおいおい! さっきのくだり、完全無視かよ!
メンタルフルボッコになってる俺の気持ち、考えてもらってもいいっすか!
どうやら、ハルカさんは、人を想う感情が欠如しているらしい。
この人の方こそ、サイコパスなのでは……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます