第4話 2・0・2
階段から降りてきた女性は、ハルカさんと同じくらいの身長でほっそりとしている、茶髪でストレートのミディアムヘア。
際どい短さのショートパンツに、ピチッとしたTシャツ姿で服から肌ががっつり露出しており、正直目のやり場に困る。
その細さと小さめのTシャツを着ているせいからか、はっきりとメリハリのついた大きな胸。これがボン・キュッ・ボンというやつか!
強調するかのような胸に気を取られていると……ん? Tシャツには、あの大人気少年漫画「ツーピース」に出てくる、かわいいトナカイのキャラクターがデカデカと胸にプリントされている。
――どうやら、女性はこちらに気付いたようだ。
「あ、リオさん、ちょうど良いところに来ましたね。こちら、今日から202号室に住む日笠ヨウさんです」
ハルカさんが早速俺を紹介してくれた。リオさん、というキレいな方が俺に近づいてきた。
なんだか怪しいものが入ってきたぞと言わんばかりの目をされているような……。
リオさんは、タレ目のくっきり二重。唇は厚くふっくらとしており、凛とした高い鼻筋が、顔にメリハリをもたせている。肌に数カ所ちらばっているホクロがなんだか色っぽい。濃くはないけど太めの眉毛が、各顔のパーツをより一層引き立たせている。
モデルでもやってる人なのかな? ハルカさんに続いて、めちゃくちゃキレイな人が現れたんだが!
まじか。これがシェアハウスクオリテか。こんなキレイな人と一緒に住めるなんて!
一気にテンションが高まった。
「は、はじめまして! 日笠ヨウと言います、宜しくお願いします!」
こういう時って、はじめが肝心だよな。
陰キャモードにならないよう必死に笑顔を作ってリオさんに微笑みかけ、ぺこっとお辞儀をする。
よし、第一印象はいい感じに挨拶できたはず! あとは上手く話せるように間を繋げられれば――。
「――え。きもっ」
――ん? 今、なんて? 初対面の人に、何を言ってるんだこの人は。
バッと見上げると、蔑んだような、怯えたような目をして俺を見ている。
ええっと、俺、何かしたっけ?
「え、あの、い、いきなりすぎて、聞き間違いかもしれないですけど、今なんて……?」
ハハハと苦笑いしながら尋ねる。
「いや、キモい」
えええ!? 何この人、めっちゃ失礼なんですけど。
「何で、ここに住もうなんて思ったの?」
「何でって、そりゃあこの館で住めることが気に入ったから、楽しみで――」
「ひぃぃっ! キモい!!!」
リオさんはと後ずさりして、バケモノから逃れるかの如く、バッと振り返ってダッシュで階段を駆け上ってしまった。
……え? どういうことっすか? 至極まっとうな理由だったと思うんですけど。
「ハルカさん。なんか俺、キモがられて嫌われちゃったみたいなんですけど……」
困ったときの管理人さん。
どうしましょう、陰キャはやっぱり住めないということでしょうか!?
「ん~、そういえばリオさん、小中高と女子しかいない環境で育ったって聞いたような。もしかすると、男性と接することに抵抗があるのかもしれないですね」
「……あぁ、なるほど? それだったら、話すだけでもどうやって接すればいいか分から無さそうですね。なんとなく、気持ちは分かります。なんとなく」
俺も女子にどうやって接すればいいか分からないですからねー!
とは言え、初対面の人にキモいとか、怯えた顔を見せるのは流石に失礼なんじゃないか?
「後で私からリオさんの様子を伺っておきます。まずは、お持ちのスーツケースを部屋に置きにいきましょうか」
「そ、そうですね。ではお願いします」
もやもやした気持ちを持ちつつ、ショックも受けつつ。とりあえず、自分の身支度も先に済ませなくては……。
ハルカさんは俺の先を行き、螺旋階段を颯爽と登っていった。
スーツケースが案外重く、俺は踏ん張って1段1段を登っていく。
この館、天井が高いからか、段数が普通の家よりも多い気がする。
高校ではネトゲばっかりやってきたもやしっ子に、このハードワークはキツい。
俺は登りながら、さっきのリオさんのリアクションを思い返した。
何であんなリアクションをされたんだろう。確か、俺の紹介の仕方は202号室に住む、って言ってたよな。
もしかして、202号室に何か原因があるんじゃ……。
階段をなんとか登り切ると、廊下に部屋が5つ並んでいた。廊下はカーペットがひかれていて、壁もコンクリートぶちっぱなし。まるでスタイリッシュなホテルみたいだ。
部屋の向かい側には、トイレや洗面台、風呂場、洗濯機置場などの生活に必要な環境が揃っている。
ここ、東京だよな? 東京でこんな良い設備の豪華な館に、どうしてあんな格安価格で住めるんだ?
ダメだ、気になって仕方がない。
「あ、あの……、こんな豪華な館なのに、だいぶ家賃もリーズナブルですよね? 何か、理由があるんでしょうか……?」
「あれ、言ってませんでしたっけ? 202号室は、1ヶ月半前に、住まれてた方が部屋の中でお亡くなりになりまして。事故物件なので値段もお安かったんですよ」
――へ? じ、事故物件だと!?
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