右鱗前方

 鶴翼かくよく(V字型の陣形)に見せかけた魚鱗(凸の形をした陣)だった。攻めに見せかけての守り。両翼は囮で、実際はその後ろに策で固めた本隊がいる。

 自分の位置は、右の鱗の前方。ちょうど、囮の右翼が眺められる位置。

 今回の命令を出してくる上官は、どうやら策に溺れるタイプらしい。鶴翼に擬装した魚鱗なんて、見破られれば簡単に両翼を切り取られる。そこからは遠距離攻撃でじわじわと削られるだけ。左右両翼の後ろに隠してある戦力も、あまり意味なくつぶれるだろう。


「さて」


 どうやって、このばかな命令系統から逸脱するか。

 この戦闘領域で、おそらく自分がいちばん強い。指揮もできる。ただ、それをひた隠しにしてきた。強いというのはそれだけで狙われる。いらない味方の面倒も見なければならない。できれば、自分の信頼できる味方だけで構成したかった。他のどうでもいい味方は、この際策に溺れた上官と心中してしまったほうがいい。


「よし、これでいくか」


 相手がぶつかってきた段階で、張り出した右翼の援護に向かうふりをする。激戦を演出しながら離脱し、しばらく戦闘領域を眺めて資源温存。相手の陣も、中央だけが突出した斜めの陣。鶴翼に対してまともに突っ込むらしい。あちらはパワータイプのばか。こちらは策に溺れるタイプのばか。


「ばかからは離れるに限るな」


 突撃が来た。こちらも早めに動いて、うまく離脱しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る