第28話 発見

 僕の心から再び希望の光が消えていくのを感じた。目の前で巨大な戦艦が海の中へと消えていく。


 待ってくれ。消えていかないでくれ。


 追い討ちを掛けるように真っ二つになった戦艦に向かって青白いビームが何本も発射される。戦艦は4つ8つとバラバラになり、海の藻屑になって消えていった。その際乗組員達の断末魔の叫びが聞こえるようであった。

 気づいたら消えていたのは僕の目の前に見える戦艦だけではなかった。僕の周りの戦艦の数は球体型の宇宙船の数よりも随分と少なくなっていた。

 宇宙人達は人々を痛ぶるように、既に沈み掛けの戦艦へビームの追い討ちや毒ガスの散布を行った。


 何て事だ。


 僕は怒りと恐怖と絶望とで胸の動悸が激しくなって、気づいたら涙を流していた。


 遠くに黄色い脱出用救命ボートが見えた。沈みかけの戦艦から必死の思いで脱出したのだろう。

 

 あのボートに乗せて貰えば助かるかもしれない。


 僕がそのボートに向かって、既に疲労で重たくなった腕を上げ、声を上げようとした時だった。


 小さな球体型の宇宙船が救命ボートの近くまで飛んでいった。そして、宇宙船の中から青い肌をした宇宙人が現れる。そいつは何十本ものクネクレした気色の悪い触手を救命ボートに向かって伸ばす。救命ボートに乗っていた人々は慌てて海へと飛び込むが、触手は彼らを追いかけて次々と彼らの顔の辺りに突き刺さる。


 僕はその光景を見ていられなくなり、目を逸らした。


「カズヒト君!」


 隣で山田さんの声が聞こえ、ハッとする。僕の目の前に、初めて見た時と同じサイズの宇宙船が浮遊していた。宇宙人のブラックホールのような黒い瞳が操縦室からこちらを見下ろしている。僕は咄嗟に山田さんの前に出た。山田さんは僕の左腕に捕まる。


「カズヒト君‥‥。ダメや。逃げよう。」


 山田さんの体温と荒い息遣いを感じる。逃げ切れる訳がない。それは山田さんも分かっている筈だ。


 僕達はここで殺される。


 違う。僕は山田さんを守るんだ。考えろ。どうやったらこの子を守れるか考えろ!


 宇宙船がこちらに向かって浮遊してくる。口がないはずの宇宙人がこちらを見て不気味な笑みを浮かべたような気がした。


〈ミ‥‥〉


 僕の頭に電子音のような音が聞こえる。


 なんだ‥これ?


〈ミ‥‥ツ‥〉


 宇宙人がこちらに向かって何十本もの触手を伸ばしてくる。僕は咄嗟に山田さんを自分の身体の影に隠すように抱きしめた。


〈ミ‥ツ‥‥ケ‥‥‥タ〉


 その瞬間、宇宙人に何十発もの銃弾が撃ち込まれる。宇宙人は顔を歪め、金属音のような不快な叫びを上げながらドロドロの銀色の液体になって海へと消えていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る