第27話 戦場の2人

 そこらじゅうから巻き起こった炎から高い空へと黒煙が立ち上っている。僕の目の前で球体型の宇宙船が爆発し、海の中へと沈んでいった。

 対する宇宙船から発射されるビームも凄まじい威力だった。次々と発射される青白い色のビームが、海の水を蒸発させ、戦艦や戦闘機を焼き切っていく。


 翼を焼き切られた戦闘機がクルクルと回転しながら落下してきて戦艦に激突し、激しい爆発を巻き起こす。


 僕の目から見てどちらが優勢で、どちらが劣勢なのか皆目検討がつかなかった。どちらの戦艦も数が多すぎる上に巨大すぎて、とてもじゃないが全体がどうなっているか把握しきれない。

ただはっきりとわかる事は、この闘いで宇宙人に負ければ僕達の命はないと言う事だ。


「カズヒト君。」


 山田さんが少し震えた声で僕の名前を呼ぶ。

隣を見ると、山田さんがずぶ濡れの髪を手で払い退けながらこちらを見ていた。


「逃げよ。ここにおったら巻き込まれる。」


「逃げるって言っても、どこに?」


 僕達は完全に戦場のど真ん中にいる。今まさに僕達は球体型の宇宙船に取り囲まれている状態で、捕まっていないことの方が奇跡だった。


「どこへかは、分からへんけど‥」


 山田さんは言葉を濁す。山田さんも今の状況の打開策が分からないのだ。しかし、ここにいてもそのうち爆炎に巻き込まれるだけだろう。


 どうしたらいいんだ!?


 僕は全身が濡れて重くなった疲労感と闘いながら必死に考えた。


 こんなところで死にたくない!ようやく生き残る希望が見えてきたんだ。あそこの戦艦には人が乗っているに違いない。近くの戦艦に助けを求めてはどうか。だとしたら今僕達がやるべき事は一刻も早く戦艦の近くまで行って自分達の存在を知らしめる事じゃないか?


「山田さん!」


 僕は自分の中の考えがまとまるなり、山田さんに声を掛けた。


「船の近くまで行こう!あそこに人がいるなら、僕達に気づいて助けてもらえるかもしれない!」


 山田さんはうなずく。それから二人は泳ぎ始めた。辺りはすでに撃墜された宇宙船と戦艦で溢れていた。怖い。恐怖で手に力が入らなくなってくる。こんな巨大なものを今まで間近で見た事がなかったので、それを見ているだけで胸がグッと締め付けられるような恐怖を覚えた。


 その上僕達はいつ爆弾やビームに巻き込まれるか分からないという恐怖とも闘っていた。数秒後には僕達はこの世から消えているかもしれない。僕は何度も振り向いて、山田さんが後ろからついて来ていることを確認した。


 近くで爆発が起こると巨大な波が起こり、一気に僕達は攫われ、戦艦から離される。その度に僕の心には、諦めてしまいたいという感情がどっと湧いてきた。


 ここでライフジャケットを脱ぎ捨てて、海の藻屑と消えていけたら楽になれるだろうか。最初は苦しいかもしれないけれど、きっと死んでいく時は横になって眠りにつくような感覚だろう。ここで諦める事ができたらもう怖い思いをしなくて済む。疲れや痛みからも解放される。

 僕はすでに上がらなくなった手をひたすらに前に出して必死で泳いでいた。再び山田さんの方を向いて、その存在を確認する。山田さんも僕と同じように、疲労感に沈んだ顔をしながらも懸命に泳いでいた。


 もし独りぼっちやったらこんな冷静におれへん。


と言った山田さんの言葉が頭に浮かぶ。もし、独りだったら、そう考えただけでゾッとする。

 もしここを生きて脱する事が出来たら、少しは山田さんに、男らしかったね、と認めてもらえるだろうか?


 僕はふとそんな事を考えた。そうだ。ここで死んだら僕は山田さんの中でダメな男のレッテルを貼られたまま死ぬ事になる。それは、絶対に嫌だ。


「山田さん!あの戦艦だ!」


僕は声を上げて、数10メートル先の戦艦を指差す。


「あそこにいる人に僕達の存在を知らせよう!」


「でも、どうやって?」


「でかい声を出すしかない!」


僕は戦艦に向かって両手を振る。


「おーい!おーい!!」


 次の瞬間だった。パッと視界が明るくなり、僕達の数メートル横を青白いビームが通っていく。離れていても肌に暑さを感じるほどに強力な熱量だ。

 見ると目の前の戦艦は二つに割れていた。船の内側がはっきりと分かる。やはりそこには人がいて、叫び声を上げていた。戦艦は僕達の目の前で海の中へと引きずり込まれていった。

 

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