第26話 希望のカケラ

 僕は絶望と共に海の真ん中で漂っていた。もう泳ぐ事はしない。波に任せて右へ左へと揺られながら海面に浮かんでいるだけだ。山田さんも同じように呆然としながら宙に浮かぶいくつもの宇宙船を見ていた。


 山田さんがこんなふうに諦めてしまうのを初めて見た。僕はこれまで山田さんといればなんとかなると思ってきた。実際なんとかなってきた。だけど今回のこれは本当にやばいのだ。 


 1番近くで浮かんでいる宇宙船がゆっくりと僕達の方へ近づいて来る。恐怖が込み上げてくる。僕達は苦しめられて殺されるだろうか?山田さんが言うように触手を体内に入れられて弄ばれるのだろうか?それとも密室で毒ガスを吸わされて、港にいたカモメのように内臓を吐きながら死んでいくのだろうか。


 ああ、なんでこんな事になってしまったんだろう。僕はただ面白い高校生活を望んだだけなのに。普通に友達がいて、願わくば可愛い彼女がいて、たわいもないおしゃべりで毎日が過ぎていくような日常。


 僕は科学実験室に忍び込む前、どうしても周りが自分より幸せそうに見えてしまって、噂の化学室に行けば自分は何か変われるかもと思った。


 周りと一線を画した何者かになれるかも、とさえと思った。でもそんな必要はなかった。僕が望んでいたのは普通の、ありきたりの、どこにでもあるような日常だったのだ。


 凄まじい爆発音がした。


 僕はあまりの出来事に何が起きたのか全く分からなかった。


 目の前で銀色をした球体型の宇宙船が燃え上がっている。

 再び、鼓膜が破れるかと思うぐらいの凄まじい爆音。その後に波が荒れ、僕達は爆心地から追いやられる。


 気づけば僕達の背後に浮かんでいた宇宙船が炎上していた。そして次の瞬間、ミサイルのようなものが飛んできて、僕達の目の前でさらに数機の宇宙船が撃墜されていく。それは空中からも海上からも数えきれないほど発射され、宇宙船を焼き尽くしていた。僕はミサイルの出どころを探す。


 僕はそれを見て、極限までに縮みこまっていた希望のカケラが胸の中で大きく膨張するのを感じた。


 いたんだ‥‥まだ、人が!!


 何十隻もの軍艦が海の上に鎮座している。その砲台から何発も何発も大砲が放たれる。空には戦闘機が飛んでおり、そこからも宇宙船めがけてミサイルが発射される。ミサイルに直撃した宇宙船はたちまち火を噴いてバランスを崩し、海の中へと消えていった。


 しかし、今度は球体の宇宙船の中心部が凹み始め、そこに青白い色をしたエネルギーの塊のようなものが現れ始める。次の瞬間、一直線のビームが軍艦めがけて発射された。直撃した軍艦は焼け跡を残して真っ二つに割れる。


 僕は呆気に取られてそれを見ていた。今、僕らは戦場にど真ん中にいるのだ。


 

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