第24話 シューー

「あいつらとずっと闘ってきたって‥‥?」


 僕は目を見開いて山田さんの方を見る。


「言葉通りの意味やお。私は大分前からあいつらの事を知っとって、それであいつらと闘ってきた。」


「山田さんはふつうの高校生じゃないのか?」


山田さんがふつうの高校生ではない事は薄々分かっていた事だ。しかし、だったら山田さんは一体何者なのだろうか。


「私はふつうの高校生やお。一緒のクラスやったやん。」


 山田さんは当然のように言った。確かにその通りだ。僕は教室の端っこで独り本を読んでいる山田さんを思い出した。山田さんはどこにでもいる普通の高校生で、一緒のクラスで一緒に授業を受けていた。あまり喋らない人なんだなと思ったぐらいで、別にそれ以上変わったところがあるようにも見えなかった。こんな事にならなければ、山田さんとここまで会話を交わす事もなかっただろう。では、いつから‥‥?


「一体いつから宇宙人の事を知ってたんだ?」


「それは‥‥」


 山田さんがそう答えかけた時だった。船が大きく揺れる。何かにぶつかったかのような衝撃だった。僕と山田さんは慌てて手すりに捕まった。


「なんだ?」


 僕は船の甲板から海の方を見下ろした。青黒く、深い海の底から黒くて巨大な影が浮上してくる。


「まさか‥なぁ」


 山田さんは少し呆れたような声でそう言った。僕は海の底から波をかき分けて姿を表したその物体を見て驚愕と戦慄を覚える。銀色の巨大な球体。それは見る見るうちに海面から浮上して、僕達の目の前まで宙を浮いてくる。


 やがてそこに真っ直ぐな亀裂が入り、操縦席が顕になった。座っているのは、僕がこの前見たのと全く同じ容姿をした宇宙人だ。ブラックホールのような真っ黒で大きな瞳、気色の悪い青い肌、何十本もの触手。


 そいつは真っ直ぐに僕達2人を見ていた。僕は呆然とその光景を見ていた。しかし、それは間違いだった。一瞬でも気を抜いたらいけないのだ。コイツらは僕達を抹殺しに来ているのだから。


「逃げるよ。カズヒト君。」


 山田さんは僕の手を取って言った。それから次の瞬間、傾いた甲板を滑り降りるようにして駆け出す。その時だった。


シューー。


 僕達の背後から気味の悪い音が聞こえる。僕は心臓が握り潰されるような恐怖に襲われた。あいつは宇宙線から何らかのガスのようなものを散布している。


 あれは多分宇宙人が使うウィルスの仕業や


 山田さんの言葉と共に、港で見たカモメの姿が僕の頭に思い起こされる。


「山田さん!あれは‥‥!」


 僕はどうする事も出来ず山田さんに助けを求める。


「あれはまずいやつやな。カズヒト君泳げる?」


「え?」


 山田さんは僕の回答を待たず、僕の手を掴んだまま海へと飛び込んだ。次の瞬間には、僕達は冷たい水面に激突し、海の中へと沈む。ライフジャケットを着ているおかげ僕はすぐに海面へと浮かんだ。船の方を見るとすでに宇宙船から散布された白いモヤのガスが船全体を包み込んでいた。

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