第23話 イン ザ スカイブルー

 陸を離れた「SKY BLUE」は思っていたよりもずっと激しい揺れを伴いながら広大な海を渡っていく。船のフロントガラスに激しい波飛沫が現れては消える。まるで巨大な壁に何度も何度もぶち当たっているような衝撃だ。


 不自然な揺れから、山田さんが決して船の操縦に慣れていない事が分かる。しかし、そんな事で文句を言うわけにはいかない。山田さんの横顔は真剣そのものだった。僕は山田さんの邪魔をしないように黙っていた。眠ろうとしたが、船の揺れが酷すぎてとても眠れたものではなかった。出航から1時間ほど経ったところで流石に耐えかねて口を開いた。


「港にいたあのカモメ、一体何が起こったんだ?」


「あれは、多分宇宙人が使うウィルスの仕業や。」


 山田さんはハンドルを握り、前を見たまま答えた。


「ウィルスって‥‥」


僕はウィルスと言う言葉に恐怖を感じる。内臓を吐き出して生き絶えたカモメの姿を思い出し、また吐きそうになる。


「カズヒト君大丈夫なん?気分悪そうやけど。」


 山田さんは横目でこちらを見ながら言った。


「船に乗るの慣れてないから、酔ったのかも。」


「生憎酔い止めとかは持ってへん。外の風に当たってきたら良くなるかもよ?」


 山田さんはそう言うが、激しく上下に揺れる船の甲板に出てみようという気にはなれなかった。


「まぁ初めてあんなもん見たら気分も悪くなるよね。」


 山田さんは僕の気持ちを察したように言った。僕は吐き気を飲み込んで頭に浮かんだ疑問を山田さんに問い掛ける。


「山田さんはあの宇宙人についてどのぐらい知ってるの?ウィルスの事も知ってたのか?」


山田さんは少しの間、前を見たまま押し黙る。

それから、


「ちょっと船を動かしながら話すのは難しいわ。停めようか。」


そう言ってアクセルを徐々に緩めていった。

本当に山田さんは船を上手く操縦していた。その事実が未だに信じられなかった。一体山田さんは何者なのだろうか。船は海のど真ん中で停まった。それでもなお、船は波に揉まれて大きく揺れていた。


「外で話そか。念のためライフジャケット着てこう。」


そう言って山田さんは船の中にかけてあったオレンジ色のライフジャケットに腕を通す。僕もそれに習った。僕達は操縦室から甲板へと出た。強く、暖かい潮風が頬に当たる。山田さんは、靡く黒髪を右手で押さえていた。


「言うてもあいつらの事はそんな知らんで。人類を滅ぼそうとしてる宇宙人やって事ぐらいしか。」


僕は手すりにしっかりと捕まって、青黒い海に視線を落とすと、さらに質問を重ねた。


「普通は宇宙人の事だって知らないよ。何で山田さんはあいつらの事知ってたのさ。」


「そりゃあ、一応、あいつらとずっと闘ってきとったし。」


山田さんは強い風で靡く髪を鬱陶しそうに押さえながら答えた。





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