第20話 独りぼっちやったら

 僕は足を引きずりながら山田さんについて、瓦礫の山を大きく迂回して、山の向こう側へとたどり着いた。

 

「ね、言った通りやろ?」


 山田さんが言った。銀色の、青白い光を放っていた球体型の宇宙船は影も形も無くなっていた。


「多分あいつが乗って逃げたんやないかな。」


 僕は暗闇に沈んでいる地面に視線を落とした。何もかも受け入れるには、あまりに情報量が多すぎる。そもそも隕石が落ちてみんな死んでしまったところからいろいろとバグっていたのだ。僕が望んだのはこんな非日常ではない。非日常とは一瞬のワクワク感の後に、再び平凡だが平和な日常に戻るからこそ楽しいものだ。

 今のこの状況はそうではない。これは言うなればどこまでも果てしなく続く絶望だ。もう穏やかな日常が戻ってくることはない。


「移動せんとかん。」


 山田さんはそう言う。


「どこに?」


「とりあえず、地球の裏側や。もともとそこを目指しとったんやから。」


「なんで地球の裏側なんて目指すんだよ。」


 僕はぶっきらぼうに山田さんに尋ねる。いろんな事が訳がわからなすぎて頭の中がぐちゃぐちゃだ。気を抜くと全てどうでもよくなりそうになる。


「行ってみたら分かる。」


「教えてくれよ!」


僕は怒鳴った。


「なんでそんなイラついとるん?」


山田さんの質問に、僕はさらにイライラを募らせた。


「当たり前だろ!いろいろと意味わかんねぇんだよ!なんで急に宇宙人が人類を殺しに来るんだ!地球の裏側には何があるって言うんだよ!?そこまで行くとして、そこにたどり着くまでに僕らが殺されない保証なんてないだろ!?今だってすぐ近くまであいつが戻って来てるかもしれない!なんでそんな冷静でいられるんだよ!?」


 僕はその場にしゃがみ込んで、頭をぐしゃぐしゃに掻きむしりながら叫んだ。


「ごめんな。分からん事ばっかりやと怖いよな。」


 山田さんがそう言う。僕は気づいたら涙を流していた。そうだ、宇宙人に襲われた時から、本当はもっと前から僕は怖くてたまらなかったのだ。一千万年生きる薬を口にしてから、僕は死なない身体になったのだと言う。それで隕石が降り注いでも僕だけが生き残った。

 だけど実際どうだろうか?本当は死ぬ事よりも生きのびる事の方がずっとずっと怖い事なのではないだろうか。


「地球の裏側には私達が生きるための手段がある。」


 山田さんはそう言った。


「そこに辿り着けるかは分からへんけど、行くしかないやろ。」


山田さんは僕の左手を握るとそっと立ち上がるように促した。


「立ってや、カズヒト君。なんで私が冷静なんかって聞いたやろ?カズヒト君がおるからやお。もし独りぼっちやったらこんな冷静におれへん。だから、こんなとこで諦めんといて。」

 

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