第19話 隕石
僕はしばらくしても起き上がる事ができなかった。山田さんは僕のそばまで来ると、隣に座り込む。
「生きとってよかったね。」
山田さんは表情一つ変えずにそう言うが、その言葉は僕の心に再び恐怖心を呼び起こした。ブラックホールのような大きな二つの瞳と、所々血管の浮き出した青白い肌、触手のような指を持った先程の宇宙人の姿が思い出される。
「あいつらのこと、さっきの宇宙人の事、山田さんは知ってるの?」
僕は山田さんに尋ねる。
「さぁねぇ、よくは知らん。」
山田さんは煮え切らない返事をする。それから僕の方を見る。
「カズヒト君は知りたいん?あいつらの事。」
「それはもちろん!なんなんだあいつらは!
僕を捕まえてどうするつもりだったんだ!?」
僕は必死に上半身を起こそうと試みたが全くと言っていいほど身体に力が入らなかった。
「そりゃあもちろん、あの触手をカズヒトくんの穴という穴から入れ込んでいたぶり殺す気やったんやない?」
山田さんのその回答に僕は青ざめる。
「聞くんじゃなかった。」
「だから聞いたやん。ほんとに知りたいのって。」
僕は一旦身体の力を抜いて真っ暗な空を見上げた。右の脹脛、さっきぶつけた肩、他にも所々にぶい痛みを感じる。凄まじい倦怠感を感じた。それもそのはずである。今までであれば、満足なご飯にありつけたし、いい服を身につけられたし、屋根の下でふかふかなベッドで眠る事が出来たのだ。それを一辺に取り上げられてしまった上に怪我までしているのだ。疲れていないはずがない。
その上、あんな気色の悪い生き物の事をこれ以上知りたいと思うだろうか。何も知らない無知なままの方がよっぽど気が楽なんじゃないだろうか。
「知りたいよ。」
僕は気づいたらそう答えていた。どうしてだろうか。心はもうボロボロなのに、それでも本当の事を知りたいと思った。
「そう。」
山田さんが小さく微笑む。
「あいつらはさ、地球上の人間全員殺しに来とるんよ。」
「え?」
僕は目を見開く。絶望感が押し寄せてくる。聞くんじゃなかった。
「だってほら、この前、急に隕石降ったやん?」
山田さんはまるで数日前の天気の話でもするかのように言った。
「まさか、あれは‥‥!」
「うん、多分やけどあいつらの仕業やで。宇宙から攻撃してきとるんやないかな。」
「そんな馬鹿な‥」
僕はそれ以上の言葉が見つからなかった。だったらもうお終いじゃあないか。この地球には、少なくともこの辺りには僕達2人しか残されていないのに、あんな奴らから身を守れる気がしなかった。
「私らの事もバレてまったからなぁ。早めに移動した方がええかも。」
「何言ってるんだ?さっきのやつは山田さんが殺したんじゃないのか?」
僕は先程の宇宙人が水銀のような液体になって溶け込んでいった地面を見た。
「あいつらはあの程度じゃあ死なへんよ。」
山田さんは少し低い声でそう言った。
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