第18話 絶望

 僕はそいつが宇宙人だとわかるや否や、瓦礫の山を駆け降りた。よく分からないが、僕の直感があいつに見つかるのはやばいと告げていた。足元が暗くて見えない。その上、瓦礫の山は硬く、いろいろと突起物が飛び出していた。僕は足を踏み外して、瓦礫の山から転げ落ちる。


 ガシャン、と大きな音を立ててスクラップが崩れ落ちた。僕は右肩に鈍痛を感じながら立ち上がる。右の脹脛が激しく痛み、目から涙が出てくる。


山田さんに知らせないと!


 僕が痛みを堪えて走り出そうとした時だった。目の前に人影が現れる。同時に全身の血の気が失せるのを感じた。そいつの二つの大きな瞳が僕の方をじっと見つめている。その瞳には白眼がなく、どこまでもドス黒い。まるでそこに二つのブラックホールがあるかのようだった。

 そいつは僕に向けて両手を伸ばしてくる。長い触手のような指。その数は明らかに五本ずつではなかった。うねうねと気色の悪い触手が、僕に向かってジリジリと迫ってくる。

僕は少しずつ後退りした。とっ捕まったら何をされるか分からない。僕の頭の中で、ありとあらゆるSF映画の凄惨なシーンが思い起こされる。


 ヒヤリと背中に冷たいものを感じ、僕は絶望感に襲われた。背中に当たったのは瓦礫の山の一端だった。僕は逃げ場のないところまで追い詰められてしまったのだ。膝の力が抜け、尻餅をつく。僕の中に絶望を超えて諦めの感情が押し寄せてくる。頭がクラクラとした。気づいた時には、僕は自分の顔を腕で覆って何も見ないようにしていた。


 1秒が経つ。5秒、10秒‥

 

 僕は顔を覆っていた腕の隙間からそっと辺りの様子を伺った。宇宙人はやはり僕の目の前に佇んでいた。しかし、その両手はだらりと力なく垂れ下がっている。痩せ細った青白い肉体の腹のあたりから一本の鋭く尖った鉄骨が突き出していた。そこからは、水銀のような液体がドロドロと溢れ出している。


 次の瞬間、耳をつんざくような雑音が夜の闇に響き渡る。それは金属音のような、しかしどこか叫び声のような音だった。やがて、みるみるうちに人型の宇宙人は水銀のような液体へと化し地面の中へと溶け込んでいった。後にはシミ一つ残らず、先端の尖った鉄骨だけがその場に残されていた。

 宇宙人がいたその場のすぐ後ろには、僕のよく知る人物が立っていた。


「大丈夫なん?」


 山田さんは僕にそう問いかける。

 僕は恐怖から解放され、その場に背中から倒れ込む。肺の中に空気が流れ込んでくるのを感じて、自分が今まで呼吸をする事さえ忘れるほどに緊張していた事に気づく。


「山田さん‥、あいつは‥、一体、なんなんだ!?」


「見たらわかるやん。宇宙人。」


山田さんは答える。

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