第16話 当たり前
僕達はひたすら歩いた。日はとっくに落ちて、気温は下がり肌寒くなった。やはり一番の問題は食事だった。辺りはどこまで行っても灰と瓦礫しかない。
山田さんに食べ物を探さないと、と言うと彼女は言った。
「そうやな。この前みたいに野良犬でもおったらいいんやけど。」
それを聞いて僕は小さく絶望する。この前野良犬に遭遇したのは運が良かった事なのだ。野良犬に噛まれたふくらはぎがジンジンと痛む。
僕が足を引きずっているせいで、二人の進むスピードは非常にゆっくりであった。それを思うといたたまれない気持ちになって来る。
やがて僕は叫んだ。
「あー、もうだめだ!僕は足を引きずってしか動けない!山田さん!君は独りで行動した方がいいよ!君独りなら食料だって簡単に探せるし、もっと早く動ける!」
僕はテンションが一周りしておかしくなっていたので、大声を出すようにして言った。
「なんやの。急にうるさい。誰もおらんからって夜はしずかにした方がええよ。」
山田さんは鬱陶しそうに言う。
そんな風に真面目な顔で言われると、折れていた僕の心はさらにへし折られるような気がした。
「別に早く動く必要ないし。一千万年も時間あるんよ?独りでおる方がよっぽど嫌やろ。」
山田さんはさも当然のように言った。
「足痛かったらここで休もか。何もないとこやけど、私が食べ物とか探して来るし。」
山田さんはそう言って硬い地面に腰を下ろす。
僕の心は完全に粉々になってしまったようだった。硬い地面に大の字になって寝転がる。
「知らなかったよ。」
「なにが?」
「山田さんがそんなにいい人だったなんて。」
「別に普通の事言ってるだけやけどな。」
山田さんはあぐらをかいて暗くなった空を見上げながら言う。空には大きな月が出ていた。そして月を取り囲むように、数え切れないほどの星が散りばめられている。
「街の灯りがないと、こんなに星が綺麗なんだ。」
僕は感嘆の声を上げる。
「それも当たり前。」
山田さんが言う。それから彼女はこう言った。
「当たり前の事やのに、なかなか気づけへんのやおなぁ」
それは僕に言っているというよりは、独り言に近い形で発せられた言葉のように感じた。僕は山田さんの事を横目で伺った。そう言えば僕は、山田さんの事を何も知らない。クラスでは本当に目立たない人だった。でも、山田さんは僕と同じように17年間の歳月を生きてきているのだ。一体山田さんはどんな人生を送ってきたのだろうか。
僕はこの日から、山田さんの事をもっと知りたいと思うようになった。
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