第15話 微笑み
「なんやの?急に大きい声出して。」
山田さんは少し顔をしかめて言った。
「いや、あのさ。僕達地球の裏側なんて目指してる場合じゃないんじゃないかな?それよりも僕達の家族を探した方がいいじゃないかな?」
山田さんは僕の方をじっと見つめる。僕はまずい事を言ってしまったかと思って、それ以上の言葉を続けられなかった。
「やったらカズヒト君はお父さんとお母さんを探しにいったらええやん。私独りで地球の裏側目指すから。」
「なんでそうなるんだよ!」
僕は山田さんに向かって大きな声で言う。山田さんに対しては大きな声で激情してばかりな気がする。
「だって‥、」
山田さんはそこで言葉を区切った。言うべきか言わざるべきか迷っているようだった。
「だって家族が死んだかもしれんなんて受け入れられへんやん。」
僕はその言葉になんと答えていいか分からなかった。山田さんの考えている事が僕には分からなかった。例えば世界が滅んでいなくたって、地震が起きたとか、巨大な台風が来たとかそう言う緊急事態には家族を探すのが何よりも先にやるべき事のはずだ。
野良犬を殺して食し、南の方角も言い当てる山田さんがどうしてそんな事も分からないのか。
別に受け入れてなんかあらへんよ。
どうしてそんなに簡単に現実を受け入れられるのかと山田さんに尋ねた時に、山田さんが返してきた言葉の意味を僕は今、改めて考える。
もしかしたら、山田さんはとっくに頭が狂っているのかも知れない。そう考えると合点がいった。通常な人は野良犬を殺して食ったりしないし、急に地球の裏側を目指そうなんて言わないし、そもそも世界に隕石が降り注いで平然としていられないのだ。
そう思うと、いやそう思わなくてもなのだが山田さんをこの場に独り残していくのはまずい事のように思えた。それに僕の家は無くなってしまったのだ。どこを探せば家族も含め、生存者がいるかなんて分かりっこなかった。
「カズヒト君どこも行かへんの?」
山田さんに尋ねられ、僕は少し迷ったが頷いた。
「少なくとも、一緒に行動してた方がいいような気がする。だから山田さんが地球の裏側を目指すなら僕は付いていくよ。」
「そう。良かった。」
山田さんはその時少し笑ったような気がした。笑ったというより微笑んだに近いような感じだ。僕は今まで山田さんが微笑んだのを見た事は一度もなかった。一度もなかったという事に今はじめて気がついた。
日はすでにかなり傾いてきている。そろそろ夕食の心配をしなければならないし、眠れる場所も探さないといけない。僕らはこの世界で、2人で生きていかないといけないのだから。
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