第14話 正常な判断
僕達はひたすら南へと歩いた。鉄と炎と灰しか存在しない道のりをただひたすらに歩いた。はじめのうちは気分良く、ピクニックでもするような心地で歩いていたが、だんだんと気持ちが萎んでくる。暦は6月であったが日中の気温は高く体から汗が噴き出た。山田さんはただひたすら歩く事に集中していて、進んで何か話そうとはしなかった。僕から話しかけても、会話は単調なもので長く続かない。
休み休み歩いていたが、それでも半日も歩いていると足が上がらなくなってくる。景色を見て気持ちを紛らわせようにも、周りは瓦礫と灰ばかりでどこを歩いているのか分からないほどに変化がなくてつまらない。僕はひたすら歩いているうちに、そもそも何のために歩いているのか分からなくなってきた。
地球の裏側に一体何があると言うのか。そこまで行ったところで何が変わるわけでもあるまい。こんな世界に取り残されてしまった時点で僕達に希望はないと思えてきた。
僕は暑い日差しに照らされながら、世界が変わる前の生活を思い出した。それぐらいしかやることがなかった。
今思うと僕には何人も親しく話せる友達がいた。なんでも話せる親友かと聞かれるとそこまで親密な関係ではなかったが、休み時間に馬鹿なことを喋っているだけで楽しかった。こんな世界よりはずっと希望に満ちた生活だった。
それから、もちろん僕には家族がいた。母親も父親も兄もいた。本来ならこんな事をしている場合ではないのだ。家族を必死になって探しに行くべきだろう。実を言うと、山田さんが身にまとうための布切れを探していた時に自分の家があった場所を見に行った。
そこは焼け焦げた平野となっていて、かつての自分の家の面影はすこしも残っていなかった。
だから僕は今まで家族の事を考えないようにしていたのかもしれない。自分の家族がもうこの世にはいないと言う事実を真正面から受け止めると、またしても立ち直れなくなってしまいそうだからだ。山田さんはどうなのだろうか。
山田さんの家族はどうなってしまったのだろうか?やはり、僕と同じように家族を失ってしまったのだろうか?しかし、そんな事は口が裂けても言えなかった。
だが、どうしたって僕達のやるべき事は家族を探す事だと思った。それかもしくはまだ生き残っている人を探すのが先ではないか。
ようやく自分の頭が正常に回るようになってきたと感じた。そうだ、僕達は地球の裏側なんて目指してる場合じゃない。この緊急事態に生き残っている人と協力して現実と向き合わなければいけないんじゃないか。
僕はそこまで考えるとようやく声を上げた。
「山田さん!」
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