第13話 南中高度

「地球の裏側って言ったってそんなのどうやって目指すんだよ。」


体操座りをまま、遠くに小石を投げて山田さんに尋ねた。


「知らんけど。まず港とか目指した方がええんやないかな。」


山田さんも硬い地面に座り込んだまま言った。


「港?」


「そ、船がないと外出られへんやん。ここからいちばん近い港やと名古屋港やないかな。」


名古屋港、そこまで歩いていくのか。しかも港にたどり着いたからといって船を動かす事ができるかどうかも分からない。


「なんとかなるやろ。」


僕の心中を察したように山田さんは言った。


「あたしらには一千万年も時間があるんやから。」


僕はとりあえず自分の位置を確認し、どちらに向かえばいいかを明確にするためにスマホを探そうとした。

しかし、自分が薄汚れた布切れを身にまとっている事を思い出して心が折れるような気がした。


「どっちに歩いていけばいいか分からない。」


「カズヒト君、地図見た事ないん?」


「は?」


「ひたすら南に歩いていけば海はあるやん。で、海岸沿い歩いてけばそのうち港にたどり着くやん。」


「そうかもしれないけど、南ってどっちだ?」


「何言うてんの。太陽が1番高く登る方角やんけ。南中高度って聞いた事ない?」


それは聞いた事があった。たしか中学の授業でやった。友達がなんちゅう高度やねん!と突っ込みを入れていたので覚えている。

しかし、どうして山田さんはなんでも直ぐにポンポンと思いつくのだろうか。

世界が変わり、山田さんと2人きりになって以来、僕はただの足手まといでしかないような気がする。

こんな世界になる前は、僕は山田さんの事を随分と下に見ていた。地味で、特になんの取り柄もない女の子だと。

違った。山田さんは自分よりもずっと出来る人間だった。


「それなら、早く南に向かおう。」


僕はなんだか悔しくなって立ち上がろうとした。しかし、野良犬に噛まれた右足のふくらはぎに激痛が走り、僕はうめいた。


「怪我してるんやでそんな無理したらあかんて。」


「いや、大丈夫だから。」


僕はそう言うが右足の痛みは相当のもので、歩こうとすると産まれたての小鹿のようになった。あまりの痛みで僕は地面にしゃがみ込み、右のふくらはぎを抑える。


「時間はあるんやからそんな焦らんでもいいのに。」


山田さんにそう言われて、僕は情けない気持ちが込み上げてくる。時間のある無しに関わらず、今しっかり自分の足で立ち上がらないと、僕はもう2度と立ち上がれなくなってしまうような気がした。

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