第11話 おしゃべり

 僕は山田さんの言葉をどう解釈していいか分からず黙っていた。微妙な沈黙が流れる。


「受け入れてないって?」


僕は山田さんに尋ねる。


「そのまんまの意味。」


 山田さんは再びそっけなく答える。それから山田さんは、焼いた野良犬のふくらはぎのあたりに齧り付いた。僕はその姿を見て、山田さんが今の現実を受け入れていないとはとても思えなかった。

 なんというか、今の山田さんはいつもの山田さんよりも活き活きして見えた。山田さんはいつもほとんど喋らなくて、クラスの片隅で本ばかり読んでいる印象だった。文化部で目立つところなんて何一つなかった。男子の中で話題に出る事すらなかった。どこか可哀想な人だったのに。

 その山田さんが今は先程自分の手でトドメを刺した野良犬を食している。


「山田さんは隕石が落っこちて誰もいなくなってよかったって思ってるんじゃない?」


 僕は山田さんに尋ねた。


「なんでそんなひどいこと言うん。みんな死んでまったんやお?」


 山田さんは特に動揺した様子もなくそう言う。それからなんでもないように、


「鳥みたいな味するわ。」


と言った。


「だって山田さんは今の世界の方が随分と活き活きしてるじゃないか。犬を殺して食べて。学校ではそんな人じゃなかったじゃないか。」


僕はなおも尋ねる。


「そりゃああんた。学校で犬殺して食べる人なんかおらへんよ。怖いやんそんな人。」


 山田さんは足の骨についた肉を丁寧に歯で噛み切りながら答える。僕は正論ばかり唱えている彼女にイライラしてきた。これじゃあまるで僕が変みたいじゃないか。


「だから、僕が言いたいのはそんな事じゃなくて‥‥!」


「あんたは食べへんの?」


僕が言い終わらないうちに山田さんは言った。


「犬なんか食べれるわけ‥‥、それに僕は一千万年生きる薬を飲んでるんだから、空腹じゃ死なないよ。」


「‥‥一千、‥‥なんて?」


山田さんはこちらを見て聞き返す。


「だから、一千万年生きる薬だよ!科学の実験室にあった!」


僕はいよいよイライラがピークに達して怒鳴る。それと一緒に焚き火の炎もパチンと音を立てて爆ぜた。


「ああ、あれそんなクスリやったんか。知らんかった。」


 僕は信じられない気持ちで一杯だった。そんなことも知らないで、山田さんはどうしてあのクスリを飲んだのだろうか。


「まぁ、一千年でも一万年でも生きたらいいと思うけど、そんなクスリ一つで空腹がどうにかなるなら苦労せんよな。」


山田さんはそう言うと再び野良犬の肉を齧った。僕はなんだか急に腹が減ってきた。





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