第8話 あかんかもしれん

 野良犬はガイコツのように痩せ細っており、飛び出そうな眼球をギョロギョロさせていた。

よだれを垂らしながらハァハァ言っている。

 たった1日ご飯にありつけなかったとしてもあんなにガリガリになる事はないだろうと僕は思った。あの野良犬はきっと世界に隕石が降り注ぐ前から飢えた野良犬をしているのだ。


 そいつは瓦礫で隔たれた、僕達から数メートル離れたところにいる。キョロキョロと周りを確認し、そして何かにかぶりついていた。そいつがあまりにも夢中で貪っているので、僕もよだれが出てくる。一体何をそんなに美味しそうに貪っているのだろうか。


「カラス。」


 山田さんがぽつりと言った。


「え?」


「あの野良犬、カラスを食べてる。」


 僕はよくよく目を凝らして野良犬の方を見ると、そこには黒い翼が野良犬を覆うように舞っていた。そして地面には薄ピンク色をした臓物が散乱していた。僕は途端に吐き気を覚える。

 飢えた野良犬はカラスの臓物をこの世に二つとない至極のご馳走のように食っていた。

 

「大丈夫?」


山田さんが僕に声をかける。


「ああ、大丈夫だ。ここから少し離れよう。」


しかし山田さんは、カラスを貪り食う野良犬をじっと見て、そこから離れようとしなかった。


「山田さん!ここから離れよう。」


僕はさっきより大きい声で山田さんに声を掛けた。しかし、山田さんはそこから動こうとしない。僕は焦ったくなって、山田さんの片腕を掴む。厚い脂肪の、柔らかい感触がする。

すると山田さんは僕の方を見て言う。


「あの犬、食べれるかもしれへん。」


僕は耳を疑った。


「はぁ!?」


「だって食べ物見つからへんやん?あの犬食べたらええんやないかと思って。さすがに下のカラスは汚くて食べれへんやろうけど。」


山田さんは僕を見て言った。この女、正気か?

僕は心からそう思った。やっぱり山田さんは頭がおかしいのかもしれない。ふつうの環境で育ってこなかったとか、生まれつき頭のネジが数本緩んでいるのかも。


「あたしひとりでは捕まえれへんから手伝って。」


山田さんはそう言うと立ち上がった。


「いい加減にしろよ!あんなもの食べれる訳ないだろ!」


僕は大声で怒鳴りつける。その声に反応して、カラスの臓物を貪っていた野良犬はギョロリとこちらに向いた。それからグルグルと唸り始める。


僕はその瞬間に察した。野良犬を食べるだって?山田さんはなんてバカな事を言ってるんだ。どちらかと言えば食べられるのは僕達の方じゃないか。僕は山田さんの手を取って走り出す。


「あかんかもしれん。」


山田さんがボソリと言った。




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