第5話 弥生時代の人が身につけるような布切れを求めて

 僕は再び瓦礫の街を歩いた。

さっきとは違って、今度は山田さんの事を考えながら歩いていた。

 全裸のまま体操座りのような格好でうずくまっている山田さん。髪の毛は縮れておりボサボサで、その体格はどちらかと言えば太っており、お腹からは緩んだ脂肪がはみ出している。太っているせいで胸は大きいが、それは男が興奮するような豊満なボディとは程遠かった。


 実際僕は女性の裸を見るのは初めてのはずなのに(もちろん年頃の男子なので動画や雑誌では何度か拝見した事はある)山田さんに対して性的な何かを一切感じなかった。


 いや、初めてではないかもしれない。小学2年生の時、学校のプールの時間。まだ男女で更衣教室が分かれていなかった時だ。別に見ようと思って見てしまったわけではないが、突発的な事故みたいなもので女子の裸を見た事がある。あの時の方がまだ、性的な興奮を感じたかもしれない。


 しかし、山田さんがいかに残念な女性だからといってこんな瓦礫と灰ばかりの世界で独りうずくまっているところを放っておくわけにはいかない。言ってしまえば道端で怪我をした犬が体を引きずっていた時に放っておけないのと同じ心理である。


 僕はその辺の瓦礫に下敷きになっている布切れを引っ張り出してみる。それはよく体育祭の時にテントに使われているような分厚く、重い素材の布切れだった。だめだ、こんなもの服になんてできっこない。適当なサイズに切り取ることもできないし、身にまとうような形に出来そうもない。


 僕は諦めて他を探す事にした。教科書に載っている弥生時代の人が身に纏っているような布切れは意外と簡単に見つからないものだ。それもそのはずだ。この令和の時代に弥生時代の人が身につけているようなものが簡単に見つかるはずないのだ。


 散々探し回って西日が刺し始めた頃に、ようやく灰にならずにかろうじて家の形を保っている瓦礫を見つけた。屋内と思しき場所には、食器や木材の破片が散乱していた。

 僕は潰れかけのタンスを見つけて、中の衣類を物色する。中からピンク色のスウェットを無理やり引っ張り出そうとするとビリビリと言う音と共にふたつに裂けた。

 僕は舌打ちをすると、潰れかけたタンスを片手で少しだけ持ち上げるようにする。見た目ではびくともしていないようだが、わずかに出来た隙間から衣類を2、3着引っ張り出す事に成功した。せっかくなので自分の分の黒色のパーカーとスウェットも引っ張り出して着替える。全ての作業が終わった時には、重いものを持ち上げたせいで息が切れ切れになっていた。


 それから僕は瓦礫と化した一軒家を改めて見た。床に落ちていた写真立ての中にある写真は、黒ずんでいて何が写っているのかはっきり分からなかった。グローブのようなものも落ちていたので、ここの住人は野球をしていたのかもしれない。生活の面影は所々にあるのに、肝心な住人の気配は少しもしなかった。



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