第4話 はだか

「変な、クスリ?」


僕は思わず山田さんに聞き返した。

山田さんはうずくまったままこちらをぼんやりとした表情で見ながら頷いた。


「じゃあ、山田さんも一千万年生きるの?」


僕が尋ねても山田さんの表情は変わらなかった。


「いっせんまんねん?」


相変わらず遠くのものでも見るみたいにぼんやりとした目をしたまま山田さんは呟くように繰り返した。


「そうだよ。科学実験室にあったのは一千万年生きるクスリだ。山田さんも科学の先生に唆されてあのクスリを盛られたんじゃないの?」


その言葉を口にした瞬間、僕の頭には科学の先生との濃厚な口付けが鮮明に蘇った。

僕はその記憶を振り払うように頭を振る。


「よく、分からん。」


山田さんは言った。僕ははぁ、ため息をついた。

どうしてこんな事になってしまったのだろうか。僕は今、目の前にある現実について改めて考えてみた。僕と山田さんの周りには灰と瓦礫しかない。

隕石が落ちてきて、周りがチリとなっていった時、僕は妙にハイだった。昨日、科学実験室に忍び込んでからと言うもの、今までに起こり得なかったような事が次々と起きた。僕はそれを静観していたように見えて、実はワクワクしていたのかもしれない。これから僕はつまらない日常を抜け出して、スリルを楽しんでいけるのだと。


しかし、実際はどうだ。誰もいない、隕石が降り注ぐ干からびた世界で、よりにもよってクラスいち不細工な女と二人きり。

しかも目の前にいるこの女はろくに会話も出来ないと見える。それが前からなのか、隕石で全てがなくなってしまったショックからなのかは分からないが、とにかく僕は目の前のみすぼらしい全裸の女を見ているとどうにも虚しさが込み上げてくるのだった。


僕はこれからこの世界で、一千万年生きていかないといけないのか。


「あたし、はだか。」


山田さんは今頃になって自分が何も身につけていない事に気がついたのか、また蹲るようにして言った。


「見んといて。」


僕は胸にいがいがとしたものを感じながら山田さんから顔を背けた。別に見たくもないし、興味もない。ただ、よく状況も分からないままこんな世界でうずくまっている山田さんの事を僕は不憫だとは思った。


僕はその場から立ち去ろうとした。

するとまた山田さんは、


「行かんといて。」


と言った。僕はイラッとして、


「服‥」とボソリと言った。


「布切れかなんか取ってくるから、そこで待ってて。」


僕はそう言ってその場を離れた。

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