第3話 灰と瓦礫とあなた

 僕は全裸のままガレキの山と化した街を歩き回った。どこを見ても灰と、ガレキと焼けた金属以外のものは何もなかった。その辺にあったボロい布切れをとりあえず腰に巻いた。ガラスの破片があちこちに散乱していて、裸足で歩くのは危ないので、とりあえずその辺りにあったプラスチックの板を布で足に巻きつけて歩いた。


 遠くの方では未だに青く澄み渡った空から地上に向かって眩しく輝く隕石が降り注ぎ続けている。本当にこれで世界が終わるのだと感じた。不思議な事に世界が終わる事を恐ろしいとは感じなかった。真っ青な空から降り注ぐ銀色の流星群はむしろ胸を打つほどに美しかった。


 むしろ恐ろしいのは、この世界で生きていかなければいけない事だ。

 僕はこれから一千万年、この世界で生きなければならないのだ。


 本当にこの世界には僕以外誰もいないのだろうか?


 ガタッ!不意にした物音に僕は心臓を冷やす。見ると積み上がった瓦礫の山が崩れていた。いや、それだけではない、瓦礫の山の後ろからは散らばったコンクリートを踏み分ける物音がする。


「誰か、いるの?」


僕は恐る恐る瓦礫の山に向かって声を掛ける。何も反応はない。僕はゆっくりと音のする方へと近づいていく。

足音と共に、微かな息遣いが聞こえる。

僕は猫を怯えさせないようにするみたいにゆっくりと瓦礫の山へと近づき、そして裏手に回ってみる。


そこには1人の女がうずくまっていた。ひどく怯えた様子だ。その女は何も身につけておらず、弛んだ肉体があらわになっていた。

顔はボサボサな長い黒髪に覆われて見えない。


「ねぇ。」


僕は声を掛けるが、それ以上の言葉が思いつかない。女は顔を上げない。


「おい。」


僕は少し強い調子で声を掛けるがそれでも女は何の返事もしなかった。僕はどうする事も出来ずにその場に立ち尽くしていた。

女は泣いている風には見えなかったが、全てのものを拒絶するように体を抱えてうずくまり、顔を上げようとしなかった。

これじゃあ誰もいないのとそう変わりはしない。そう思って僕はその場を去ろうとした。


その時、


「待って。」


と女の声がした。


「行かんといて。」


振り返ると女は顔を上げていた。僕は驚嘆した。顔を見なければ分かるはずもなかったが、その女は僕のクラスメイトの山田加奈であった。


僕の頭に東校舎3階で山田加奈に偶然遭遇した時の記憶がフラッシュバックする。


いや、あれは本当に偶然だったのだろうか?


「山田さん?どうして?」


僕はみすぼらしい格好をした彼女を見下ろして尋ねた。


「科学室で変な薬飲んだ。」


彼女のその言葉に、あの遭遇が愚然ではなかった事を僕は思い知らされた。





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