世にもカワイイ最強人類

オルニシキ

第1話

 その生物はとにかく可愛かった。

 「アプ! ぷぷぷ… あぅ。 」

 無邪気で清らかな瞳に、今にもこぼれそうなほっぺ。短い手足、そしてまぁるく大きな頭部。

 子育てを経験したことのある者ならば(あるいはそうでなくとも)この姿を捉えた瞬間、こう思うだろう。

 可愛い。

 ぷにぷにしたい。

 

 その生物は、とにかく、可愛いのだ。

 

 ただし、その手にしているものは若干…いや、かなり…多少の忖度をしても可愛いと呼べるものではなかった。

 

 そして、可愛い姿を一切損なわない果てしなく安定したモーションで、可愛くない武器のトリガーを引く。

 

 ヒュン! ……… ズ…どおぉン! 

 遠くに重々しい地鳴り。程なくして、大きく巻き上げられた塵がその地を緩やかにドーム状に覆い始めた。

 攻撃を観測していた一人が、高性能レンズを覗いたまま状況を報告。

 「命中。…対象の無力化を確認。いや…うん?一匹…いや小さいやつが塊まってこちらにむか…!!!」

 

 「あぷぅ!」

 

 ぱぁん!

 破壊された基地から飛び出した塊は、その可愛らしい音声と共に繰り出された弾丸をうけ、中央から美しく四散。いくつか残った塊の構成物たるそれらも、はじめは激しく飛び回っていたものの、やがて右往左往しながら散り散りに飛び去っていった。

 

 「や…やりました! 流石です!」

 「遂に奴らから基地を奪還することができました。ありがとうございます!ありがとうございます!!」

 「あぁ!これでやっと帰れる…!」

 くたびれた兵士達は心からの喜びの声をあげていた。その高すぎるテンションで今にも武装を解こうとする勢いであったが、そうは行かない。

 

 ここは空気も重力もないゴツゴツとした岩場。

 軽やかにスキップでもしようものなら、キックの勢いでどこまでも飛んでいける、そんな空間-そう、つまり宇宙空間なのである。

  

 身体全身を覆うスーツは、私達の知るいわゆる宇宙服とはちょっと違う。やけに人間くさいスタイルで、関節は外から見えるだけでも20以上。関節と関節をつなぐ管は、よく見ると無数のファイバー状の素材でできており関節の動きに合わせて細かく伸縮するようだ。また数カ所に小型モーターが組み込まれており、関節の動きを繊細にコントロールできるようである。

 

 「あ、これ、最後に飛んできた小さいやつじゃないですか?」

 スズメバチのような昆虫様の死骸を、一人の兵士がつまむ。

 つまむ…つまり、そのスーツは優しい力で物を壊さないように持てるということだ。

 

 「クソ! なんなんだこいつら! せっかく作った基地だったっていうのに!!」

 一人の兵士が近くの岩場を殴ると、その岩はまるで発泡スチロールのようにもろく崩れ去る。

 岩が脆いわけではない。そのスーツは本来の人間が持つ力より遥かに大きな力を引き出すことができるのだ。

 

 「あぶな!! オイ! せっかく生き延びたのに、仲間のデブリで死にたくないぞ! そういう熱血はスーツを脱いでやってくれ」

 更に他の兵士が、先程の兵士が作った岩の破片を間一髪で避け、若干裏返った声で怒鳴りつける。

 飛び散った破片は宇宙空間では散った勢いのまままっすぐ飛び続ける。そのスピードを交わすことができる。このスーツは凄まじいスピードセンサーを持ち、思ったと同じ速さで身体を動かすことができる瞬発力を持っていた。

 

 「ぷぅー。 あぷぷ!」

 可愛い生物は、そんな兵士たちをたしなめるように一言発したあと、彼らには目もくれず、先程自分が攻撃を行なった地へと進んで行った。

 

 「待ってください!我々も行きます!」

 「一人では危険です!」

 「…あぷ」

 「かわいい…」

 

 西暦…というものがまだこの世に存在するのであれば…3017年。世界は私達の居た頃の世界より、ほんの少し広がっていた。

 そして、あいも変わらず、領土を広げたり、種族間競争を繰り広げたり、分かり合えたり、災害と隣合わせだったり、そんなヒト科の営みを続けていた。

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世にもカワイイ最強人類 オルニシキ @pkpk0717

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