第13話「罪の告白ってことか。確かに。」

 ゴールデンウィークが明けた5/6木曜日の朝。

 俺は鏡の前で自分の髪の毛と戦っていた。


「ワックス難しすぎんだろ!」


 

 根本から立ち上げる?全体に馴染ませる?ちょちょいと前髪調整?やってるよ!でも上手くいかねえじゃん!


 ちらりと風呂場を見る。

 もう一回髪濡らしてやり直すか?でもそしたらワックス洗い落とさないといけない?


「うわもうこんな時間かよ!もーどうすりゃいいんダァー!」


 ヤケになってワシャワシャグシャグシャと髪をかき混ぜる……と偶然、ソレっぽくなった


「おっ?おおっ!?おおおっ!フゥ〜ラッキーやればできんじゃんオレ!」


 首に手を当てて気だるげ寝違いポーズ。

 親指と人差し指を顎の下に当てるN◯KEポーズ。

 ……いい。いいぞ。相波バージョン2.0、新時代の幕開けだ。


 ——自転車通学で向かい風に全てを台無しにされた。



***



 私は朝の時間が好きだ。

 新品の日差しが差し込む静かな教室で一人本を読む。


 学校行事があれば〇〇リーダーや××長など役職に就いているので、普段からかなり人付き合いが多い。もちろん自分の意思でやっていることだけれど、誰かといる時間に埋め尽くされると疲れてしまうから、自分と向き合える時間がいっそう大切だ……とはいえぎりぎりまで家にいて遅刻寸前に教室に駆け込んではリーダーとしての示しがつかないからバランスを取って毎朝7時に登校している。

 朝のHRは8:40からで、現在7時44分。クラスメイトがたくさん登校してくるのは8時前からなので、ちょうど1時間ほど広い教室を無意味に独占できる。


 カラカラと教室の後ろ扉が開いた。

 

 ——今日はここまで、か。


「あれ、珍しいね。おはよう相波くん」

「あ、ああ。おはよう。早いな。」


 あいさつすると相波くんは少し慌てた様子だ。私がいたことが意外だったのだろうか。


「あはは、早いのはお互い様でしょ?あれ、髪切ったんだ。」

「あー、うん…心機一転というか、なんというか……」

「さっぱりしてていいね。」

「そ、そうかな」

 

 ——あれ?


 相波くんは目線がさまよったりズボンを手のひらで撫でたり落ち着かない、かと思ったらフッと小さく、短く、細く、鋭く息を吐いた。


 ——え、ウソ。そんな、なんで?


 他のクラスメイトがいない時間に普段はしない早朝登校をして。

 今まで無頓着に放って置いただけの髪型だったのにヘアカットしてワックスをつけて。

 私の顔を見て驚いて落ち着かなくなって。


 覚悟を決めたような彼とは反対に、彼が振り払った緊張が今度は私に伝染してきた——落ち着け。小説に影響されて思考が詩的になってる。


「いやさ、今まで……て言ってもまだ1ヶ月なんだけどさ、一緒に学級委員やってたじゃん?」

「うん。」


 ——そうだね。一緒に学級委員してるけどまだ1ヶ月だよね。


「でさ、今度は蓮華祭の実行委員も一緒にやることになってさ。正直乗り気じゃなかったんだ」


 ——知ってたよ。必死で任命されないように抵抗してたよね。


「そうなんだ……でも待って。また今度にしない?」

「悪い、いきなり話しかけて驚かせたよな。でも聞いてほしい。今伝えないと次はない気がするんだ——」


 相波くんはスゥッと息を吸って、勢いよく頭を下げた。


「朝倉、今まで本当にごめん!」

「突然言われても困るっ……あれ?」


 ——ごめん……?今までずっと好きでした、とかじゃなくて、ごめん……?


「そう、だよな。LINEずっと放置してたし……ほんとにごめん。」


「それはもういいよ。アンケート機能使って出し物の案を先に出してもらうってアイデアすごく良かったし実際上手くいってるから。でも何で?告白とかじゃないの?」


「告白?なんで?」


私は自分の勘違いに気づいた。顔が熱い、きっと赤面している。


「……あっ、なるほど。」


相波くんも私の勘違いに気づいてしまったようだ。


「罪の告白ってことか。確かに。」

「違うし重いよ。」


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