第11話「黒歴史」
1年3組の男子ブロックリーダーに立候補した5月、今思えば俺の立ち位置は自分が思っていた以上に危うかった。
同じソフトボールクラブのチームメイトや、小学6年からの仲良しでみんなで野球部への入部を決めた友だちが、他の小学校から来た野球部員と上手に仲良く楽しく付き合う中、何となく馴染めなかった俺は彼らの「適当に流そうぜ」って空気を読まず練習に全力で打ち込んでいた。
外周ランニングでは1番を目指し、筋トレは倍のペースでこなし、素振りは手の皮が剥けても一回ずつフルスイングする。
一言でまとめると『しゃしゃっていた』俺は、だんだん声をかけられることが減り、声をかけても相手されなくなっていった。
遊びに誘われることはなく、一緒に行っていいかと聞いても曖昧な返事でうやむやにされる。
こうして野球部内で孤立していった。
チカッ。
ある体育祭の練習日。
普段と違うことといえば雨が降りそうな雲り空。
そして全校生徒が白帽子をかぶって整列して上から見下ろすと白い長方形になっている中に空いた小さな黒い長方形。
雨天で室内の練習の時は白帽子はいらないと俺が言っていたせいで、朝に少し雨が降っていたこともあって1年3組はクラスの半数の20人近くが帽子を忘れていた。
実際には突然晴れて必要になるかもしれないから、一応持ってきて練習前に体育祭の責任者であるの体育の先生の指示に従う——というのが正しいマニュアルだった。
——ねえ見て
——ふふっ
——なんだあいつら
——マジかよありえなくね?
体操服やハチマキや帽子は、忘れると本番のブロックの点数から1人あたり1点の減点を課される。
どんなに曇り空でも外での練習ならば帽子は必要。
ヒソヒソと漏れる声が面白がるものと非難混じりのものばかりなのは、1年3組が帽子を忘れた人数×1点の減点を課されたからだった。
後になって分かったことだが、流石に20点も減点するのは可哀想だとか、俺が一年で初めての失敗だったとか、体育の先生に土下座する勢いで謝ったこととかで、1点の減点に留められた。
しかしそんな未来のことは、リーダーの指示に従って帽子を忘れたせいで現在進行形で周りから白い目で見られて恥ずかしい思いをしている1年3組には関係なく、部活でもハブられ気味だったことも相まって、元々大したことなかった俺の信頼とか権力とかそういったものは完全に吹き飛んだ。
チカッ。
1年3組の帽子忘れのせいで、1年3組が所属する黄ブロックが20点もの大減点を食らった日の放課後。
——どんまいw
——まじ馬鹿だろ
——何であいつリーダーしてんの?俺の方が上手くできるわ。
——居ない方がいい。
野球部の練習前に、黄ブロックの部員が大声で減点を嘆き、他のブロックの部員は笑っている。
チカッ。
俺の指示を聞こえないふりして、女子のブロックリーダーと男子の副ブロックリーダーの指示にキビキビ行動するクラスメイトたち。
チカッ。
練習のウォーミングアップで、ストレッチのペアが見つからず右往左往して結局一人で二人用のストレッチを真似する情けないヤツ。
チカッ。
体育祭の結果発表で10点差で2位になった黄ブロックの悲嘆の声。
それに続けて、よく頑張ったよ、あれがなかったらなーとチラチラ向けられる視線。
チカッ。
野球部の練習が終わって部員が全員帰った頃、生徒指導室で顧問に退部届を提出する俺。
ほら、やっぱ挑戦なんてしない方が良かったな。
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