下 ── ……今日も俺は生きている。





 俺たちを載せた多用途装輪装甲車──関節連結トレーラー型で〝コネストーガ〟と呼ばれてる──は、〝のシャフト〟を目指して巡航している。

 人工太陽灯の陽射しは翳っており、〝昼の時間〟が終わろうとしていた。

 あの後、一戦闘を終えた俺たちは周辺の廃墟を捜索する漁る目星めぼしい〝ガラクタ〟──再利用対象の工業資源──を集めて引き上げた。2体のオーガーから取り外された部品もその中に含まれている。3銃身20ミリ機関砲が2門と4脚の駆動機器の類いが2組……そこそこの稼ぎだ。

 後方車両に積まれたこれらのガラクタは、〝タウン居住区画〟や〝シティ上級居住区画〟の然るべき場所で〝ポイント〟とは別に付加価値物資と交換できる。

 72時間の〝ミッション〟の期間中であれば、俺たちトループスにはこういった活動も許されていた。所謂〝戦利品〟というヤツだ。

 今回はそれほど実入りが良かったとは言えないが、それでもミッションで得られたポイントと併せれば、十二分に満足できる戦果だった。


 コネストーガ後方支援車は戦闘領域の境界を越えた。ここまで来られれば、もうオートマトンと交戦することはない。すでにプロテクトギアを除装していた俺たちは、オープントップ屋根なしの後方車両の上で風に吹かれ、それぞれに寛いでいた。〝抜け殻〟──除装後のプロテクトギアは得てしてこう言われる…──を固定した後方車両のベンチシートにはもう余裕は無かったが、それでも長時間ギアを纏っていた俺たちには、この開放感は格別だ。

 TACネームコールサインバード吟遊詩人〟ことダニー・ウィルキンズが、運転を自動モードにして前方車輌のキャビンから俺たちのいる後方車両へと移って来た。コイツとは同じ〝タウン居住区格〟の出身で養成所でも同期……いわゆる腐れ縁幼なじみという間柄だ。トループス戦士としての〝レベル〟はE……、C級の俺とは差が開いてしまっているが、元々こいつは性格的にトループスには向いていない。生真面目で、根が優しいんだ。


 ダニーが、キャビンから抱えてきた冷えたビール缶をメンバーに放り始める。

 皆が次々と受け取る中、俺は懐からペーパーバックソフトカバーの本を取り出す。そういう俺にはダニーはビールを放ってこない。俺がアルコール酒類を摂取しないことを知っているからだ。

 後方車両のあちこちから、フタを開ける小気味良い音が聞こえてきた。


「よう…──」

 ペーパーバックソフトカバー版の『華氏451度』を開いていた俺の許に〝レンジャー野伏〟ことリオン・ハドルストンが声を掛けてきた。俺と同じC級のトループスだ。

「な~に読んでんだよ?」

 訊かれたので俺は手元の本のタイトルを見せてやった。途端にツリ目の表情かおを顰めてリオンが本に手を伸ばす。ぱらぱらと目を通すと、

「何でぇ、文字ばっかで画がねえじゃねぇか……」

 とつまらなそうに言って、ポイと放って返してきた。空中でそれを受け取った俺は、苦笑して訊き返す。

「どんな画がありゃ良かったんだい?」

 リオンはニッと嗤って言った。

「……おんなの裸」

 それであとはもう興味が無くなった、とばかりに他のメンバーの方へと移動していった。まったく……。こういう感じの〝判りやすい〟ヤツだ。

 パーティーでは対物ライフルを抱えて〝後衛〟に就く。いわゆる狙撃手だ。

 思い切りがあり腕もいいのだが、少々活動的に過ぎるきらいがある。俺たち〝前衛〟並みに跳び跳ねたいらしい。だから〝前哨狙撃兵レンジャー〟ってTACネームが付くわけだ。


 そのリオンが次に絡んだのが〝クレリック戦う聖職者〟ことレスター・ウォーベック。パーティーの最年長者で確か50代に入ってるはずだ。身体能力に衰えは確かにあるが、B級になるまでに培ったその豊富な経験でパーティーを支えている。リーダー分隊長のいい相棒だ。

 リオンに絡まれることになったレスターは、〝気のいい親父〟という表情で応じている。いつもの通りにウィットに富んだ〝切り返し〟でリオンをなしているのだろう。


 そんな様子を見て美味そうに缶ビールをっているのがパーティーのリーダー、〝ウォーロード指揮官〟ことアラスター・カウリーだ。

 豊富な経験を踏まえた冷静な戦術家……すでにA級のトループスで〝インスペクター検査官〟の資格を持つ。とうに〝シチズン市民〟の資格申請をしていておかしくない猛者なのだが、なぜだかこうして俺たちとミッションをこなしている。

 戦闘が好きで好きでたまらない、というジャンキー壊れた人間というわけじゃない。むしろ〝学もある人間〟だから何か理由があるのだろう……。だが、それを聞いたことはなかった。


 とまあ、この面子が俺の仲間…──パーティー分隊だ。戦場における兄弟・家族、いや戦場の外においてもそうだと言っていい。



 さて、最後になったが、俺のことを紹介しておこうか。

 TACネームは〝ローグならず者〟。C級のトループスで、パーティーでは〝前衛ポイントマン〟に就く。

 名をジェイク・ハックマンという。

 それ以上のことは、ま、追々に……ということにしよう。



 ……今日も俺は生きている。

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