佐藤の場合

第1話 消失

「あれ?」


 佐藤がいない。

 毎日私と寝ている佐藤。

 昨日も一緒にベッドに入った。


「あれ?」


 わけがわからない。

 どうしていないの?

 なにかあったの?


「……」


 もしかしたら、急な用事ができたのかも。寝室を出る。佐藤なら、テーブルに書き置きを残しているはず。昔はそうだった。仕事が忙しいときとか。


「ない……」


 テーブルは昨日のまま。

 きれいに片付いている。


――――――――――――――――――――


「お久しぶり、シャロールちゃん」


 どれくらい経っただろうか。

 家事も何もかも忘れて呆然としていた私に懐かしい声が聞こえた。


「あなたは……?」


「管理人だよ、管理人」


 あぁ。

 そんな人、いたな。


「今日は残念なお知らせをしに来たよ」


 相変わらずフードを被っていて顔がよくわからないけど、なんだか申し訳無さそう。


「なんですか?」


「佐藤君なんだが……」


 私の心臓がドキリとはねた。

 大事なことを思い出したかのような感覚。

 佐藤のことは、一度も忘れたことはないけれど。


 嫌な……予感。


「この世界の管理も大変でさ、それというのも本当は魔王を倒すなりなんなりしたところで……」


「早く言って」


「あの、つまり……」


 私は緊張で、つばを飲み込んだ。


「消えちゃったんだよ、佐藤君が」


「……」


 消えた?

 佐藤が?


「どういうこと?」


「僕もわからない」

「もともとこの世界はバグだらけだ。さらにエンディング後にむりやり引き伸ばしているんだ。しかも、彼はイレギュラーな存在だから……」


「戻ってこないの?」


「そういうことに……なるね」


「そっか」


「僕は何もしてないよ。けど、気の毒だから報告だけでもしに来た」


「ありがとう」


「そ、それじゃあ、さようなら」


「さよう……なら」


――――――――――――――――――――


「お母さん?」


 おかしいな。

 いつもなら、お昼ごはんを作りに来てくれるのに今日は一向に来てくれなかった。

 何かあったのかな?


「うっ……ううっ……」


 家の中から、すすり泣く声が聞こえる。


「大丈夫!?」


 ドアを開けて中に入ると、お母さんはテーブルに突っ伏して泣いていた。


「どうしたの!? お父さんは!?」


 お父さんは、いつも家にいる。

 年も年だから。

 なのに、今日はどこにもいない。


「いないの……」


「いないって……」


 どういうことだ?


「いつから?」


「昨日まではいた……」


 となると、朝か。


「もういいの、ブレサル」


「どうして!」


 興奮して声を荒らげてしまった。


「絶対に戻ってこないから」


「そんな……」


 なんでそんなこと……。


「忘れましょ、お父さんのことは」


 生まれてはじめて、お母さんの寂しそうな顔を見た。いつも笑っているお母さんとは、別人みたいだ。

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