第5話 花

「それじゃあ、行ってくる!」

「皿は自分で洗っとけよ〜!」


「は〜い!」


 ブレサルと朝ごはんを食べた僕は、花屋に急ぐ。


――――――――――――――――――――


「ここだよな……」


 この町で花屋といったら、ここしかない。


「あら、お久しぶりですの」


「へ?」


 花屋の店先で声をかけられた。


「忘れたんですか?」


 この女性、どこかで見覚えが……。


「まあ、いいわ」

「あなたに渡したいものがあるの」

「ちょっと待ってなさい」


 やはり。

 ここにも手紙があるんだ。

 奥に入っていく店員さんを見送る。


 う〜ん、あの人誰だっけ?

 ずいぶん前にここに来たことがあるような。

 その時、あの人を見た……ような。


「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 あれ?

 今度は封筒だ。

 中には、手紙と……押し花?


「あなた、本当に忘れてるのね」


 封筒を覗き込んでいたら、話しかけられた。


「……すみません」


 もう少しで思い出せそうなんだけどな。


「私がここに店を開いたとき、手伝ってくれたじゃない」


 手伝い?

 花屋の?


「ああ!」


「やっと思い出したのね?」


「はい」


「ま、私のことはどうでもいいから早く読んじゃいなさい」

「そこに座っていいわよ」


 よく見ると、外にはテーブルと椅子が置いてある。


「私、カフェも始めましたの」

「サービスで入れてあげるわ」


「あ、ありがとうございます」


 僕は手紙を取りに来ただけなのに。

 こんなに歓迎してくれるなんて。


「さて……」


 待ってる間、暇だし読むか。


「佐藤へ。悲しいけれど、これが最後のお手紙だよ。このお手紙で佐藤に伝えたかったことは、もっといっぱいあるの。でも、でも……私にはそれを全部書くだけの時間や体力がないの。たったこれだけの手紙で私の愛が伝わったかな? わからない。ううん、私が佐藤を愛していること、十分伝わったよね。私、佐藤のこと信じてるよ。今までも、これからも。だって、佐藤は私の自慢の夫だから。シャロールより」


「……」


 シャロール。

 伝わってるさ。

 僕が鈍感だと思ってるのか?

 お前の愛に気づかないわけないだろ。

 限られた時間で、僕を想ってここまでしてくれるなんて。

 やっぱりシャロールは僕の自慢の妻だ。


「おっと」


 封筒が風に飛ばされかける。

 手で押さえて、手紙を戻そうとしたときだ。

 中に押し花があることを思い出す。


「これ、なんの花だろ?」


 取り出して、まじまじと眺める。

 青紫色で、星型の……。


「それはキキョウですわ」


 ティーカップを持ってきた店員さんが答えた。


「キキョウ……」


「数ヶ月前、シャロールさんがここに来たとき、彼女はこう言いましたわ」


 なんだろう。

 というか、そんなに前から手紙を……。


「佐藤は鈍感だから、花言葉を教えてあげて……と」


 シャロール、僕のことバカにしてない?

 でも、確かに花言葉はわからない。


「……教えてください」


「もちろん」

「キキョウの花言葉は……」


 店員さんは、そっけなく告げた。


「永遠の愛……よ」

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