第4話 ネコミミ

「バカ!」


 リンゴなんかより、お前のほうが!

 お前が!

 お前のことが!


 好きなのに……!


「くっ……!」


 リンゴにはなんの罪もないのに、地面に叩きつけたくなった。

 僕の手が、リンゴを握ったまま震える。


 覚えてるさ。

 忘れるはずがない。

 僕は、シャロールのことが大好きだ。

 あのときも、今も。

 だから悲しんでるんじゃないか。


 僕の愛を疑うなんて……怒るぞ!


 怒る。

 喧嘩してやる。


「シャロールと……喧嘩か」


 日々の思い出が、走馬灯のように駆け巡る。

 喧嘩もしたけど、なんだかんだ、いつも楽しんでた。

 それも、もう……。


「佐藤さん、そろそろ……」


 オリーブさんに声をかけられて、我に返る。

 気づけば、あたりは暗くなっていた。


「すみません、帰りますね」


 リンゴを抱えて、果樹園を出る。


――――――――――――――――――――


「父さん! どこ行ってたのさ!」


 僕を見ると、ブレサルが叫んだ。


「あ〜、すまん」

「昼飯は食ったか?」


「これでも、もう二十歳だよ?」

「なんとか作ったよ」


 少し自慢げなブレサル。

 成長したんだな。


「そうか、よかった」

「夜ご飯は作ってやるよ」


「わーい! ありがとう!」


 でも、まだまだ子供だ。


――――――――――――――――――――


「ほら、リンゴのサラダだ」


「うわ〜、懐かしい!」


 小さい頃は、よく作ってやっていた。

 ある時期から、反抗期になって、食べなくなったがな。

 あのときのシャロールの怒りようったら。


「父さん、母さんが残したもの、見つかったの?」


「いや、まだ花屋に行ってない」


 本当は、家に帰らずに花屋に行きたかったんだが、もう夜だから閉まってるだろうな。


「花屋?」

「なんで母さんは花屋なんかに?」


「さあ?」


 なんでだろうな。

 なにか忘れている気がする。


「う〜ん、美味しい!」


 まあ、今日のところは寝ようかな。


――――――――――――――――――――


 早く明日にならないかな……。

 こんなにワクワクするのは、いつぶりだろうか。


「なぁ、シャロール」


 眠れないので、話しかける。


「むにゃむにゃ」


「あ……」


 僕は何をやってるんだ。

 シャロールはもう……いないんだった。

 でも、ブレサルがいる。

 かわいい寝顔を見せてくれるブレサルが。


「よしよし」


「うへへ……」


 頭を撫でると、母さんから受け継いだネコミミに触れた。

 気持ちいい。

 癒やされながら、眠りにつく。

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