第3話 リンゴ

 あぁ、そうだな。

 ここは僕と君が初めて出会った場所だ。

 まだこの世界に馴れていないあのとき、君が声をかけたんだ。

 そして、僕は殺されたんだが……。

 それがなければ、出会わなかった。

 今となっては、むしろ感謝してるよ。

 僕だって、同じことを思っているさ。


 出会えて……よかった。


「うっ……」


 いけない。

 また涙が。


 泣いてる暇なんてないのに。

 次は……リンゴなんだろ?

 きっとあそこだ。


 僕は涙をこらえ、立ち上がる。


「それじゃあ、また」


 なんとか声を絞り出して、ギルドを出る。


――――――――――――――――――――


「まだ昼か」


 太陽はちょうど空の真上で輝いている。

 この世界の時間的には今から果樹園に行っても、夜までには帰れるな。


 ごめんよ、ブレサル。

 昼飯は自分でなんとかしてくれ。

 父さんは、昼飯よりも気になることがあるんだ。


――――――――――――――――――――


「ひさびさだな」


 ブレサルが大きくなってからは、行かなくなったノーチル果樹園。


「こんにちは〜」


「いらっしゃいませー」


 中に入ると、あの頃のようにオリーブさんが受付に立っていた。


「佐藤さん、今日はどうしたんですか?」


「あの、突然なんですけど……」


「はい」


「シャロールの手紙、持ってますか?」


「はい、ここに」


 オリーブさんは、待ち構えていたかのように手紙を取り出した。


「ありがとうございます」


 しかし、少し気になった。


「僕がここに来ること、知ってたんですか?」


 しばし言いよどむオリーブさん。


「すみません、無理な……」


「シャロールさんが言ってました」

「佐藤は必ず来ると」


「……」


「私は、お二方がお互いにどれほど信じあっているかを知っているつもりです」


 信じあう……か。


「なので、待っていました」


「そうですか……」

「本当にありがとうございました」


 僕は頭を下げて、果樹園を出……。


「あの!」


 呼び止められる。


「せっかくなので、リンゴどうですか?」

「ご家族の皆さん、好きでしょ?」


「わかりました」


 この人は、なんて商売上手なんだ。

 僕も、ブレサルも……シャロールもリンゴが好きだ。

 それに漬け込むなんて……。


 僕は微笑しながら、オリーブさんの元に戻る。

 このまま、少しリンゴでも取って、帰ろう。

 そう思いながらリンゴの木に向かっていく。


――――――――――――――――――――


「よし」


 リンゴはこんなもんでいいだろ。

 キャイアさんにお裾分けしても、足りる。


「帰るか?」


 空はほのかに赤くなり始めている。


「いや……」


 手紙を読みたいな。

 なんとなく、ここで読みたい気がして、広げてみる。


「リンゴを愛してる佐藤へ。ここにはいろんな思い出があるよね。佐藤と出会ったばかりのとき、ブレサルが小さいとき、何度も行ったよね。ねぇ、覚えてる? 佐藤がここで私にプロポーズしたの。私、とっても嬉しかった。佐藤が私と一緒にいたいって思ってるのがわかったから。そして、今私がこんなになってしまっても、佐藤は見捨てたりなんかしなかったね。あのときのまま、私を愛してくれている……かな? それとも、リンゴの方が好きだったりして。変わらぬ愛のシャロールより。追伸。次はお花屋さん」

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