第74話 とある禁止区域にて

拙作『生き返った冒険者のクエスト攻略生活』のコミカライズが、ヤングエースアップにて連載スタートいたしました!

https://web-ace.jp/youngaceup/contents/1000181/


漫画:冥茶 原作:萩鵜アキ キャラクター原案:ひづきみや

こちらも合わせて、宜しくお願いいたします。



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 なんと、魔物が再びダンジョンの中に逃げ込んだのだ!


 これまでの渉の経験上、考えられない状況だった。

 魔物が一度スタンピードしてしまえば、再び魔物がダンジョンに戻ることはない。

 それが、これまでの渉の常識だった。


 だから、渉はダンジョンの前にシールドを張っていなかった。

 たとえそこへ逃げ込んだとしても、一切人間の側に被害はない。

 だからダンジョンゲートへのシールド展開は、優先順位の低い地点だった。


 そこを、ボスに突破された。


(あの時、ボスはまるでなにかに怯えているように見えた)


 本来魔物は、人間への攻撃性がとにかく高い。

 子連れの親熊のように、人を見ればなんであれまず襲いかかるものである。


 にも拘わらず、あのボスは怯えていた。

 その視線は、Sランクである渉ではなく、Dランクである天水を見ていた。


「一体、あのボスは天水くんの何に怯えていたんだ……?」


 結局、ボスがダンジョンの中に逃げ込んだせいで、天水の戦いを観察することが出来なくなってしまった。


 ボスを倒した天水は、怪我を負っている様子はなかった。

 Bランクのボスを相手に、怪我を負わずに倒せる冒険者が、一体日本に何人いることか……。


「もしかしたら、回復薬で治療したのかもしれないけど……それにしたって、疲れてる様子はなかったよねえ」


 考えれば考えるほど、天水が行ったマジックが気になってくる。

 出来れば、種があって欲しいと渉は思う。


 もしそのマジックに種がなく、腕力だけでオーガを圧倒したのであれば、それもう、Aランクという枠組みに収まり切らなくなってしまう。


「新たなSランクの可能性を持つ冒険者、か。なるほど、だからこそ、天水くんはアレを望んだのか……」


 指名依頼の報酬として、渉はできる限り応えると約束した。

 その結果、天水はボスを倒し、渉でも簡単に応えられる報酬を口にした。


 しかしまさか、それを望むとは、想像だにしていなかった。


『立入禁止区域への入場権』


 それは、かつて日本にダンジョンが出現したばかりの頃の余波だ。

 当時の日本は、ダンジョンの脅威に対応する力がなかった。

 そのため、国土の十分の一を魔物に蹂躙されてしまった。


 それから二十年が経ち、魔物を相手にする冒険者が十分成長してきた今では、魔物に奪われた国土のほとんどを取り戻していた。


 それでも未だに、手つかずの土地がある。

 それが、立入禁止区域だ。


 そこでは様々なランクの魔物が跋扈している。

 最大でAランクの魔物も出現する。

 テンポラリーダンジョンは放置され、スタンピードし続けている。

 魔物が常に、増え続けているのだ。


 実力がある冒険者であっても、立ち入ればすぐに魔物に呑み込まれてしまう。それほどの場所だ。


 そこには限られた冒険者しか入場が許可されていない。

 実際に許可が与えられる冒険者は、軒並みAランク以上だ。Bランク以下の冒険者に許可を与えた事例は、ヒーラーやバッファー以外にはほとんどない。


 天水は、そんな危険地帯への入場権を求めた。


 渉は過去に、何度か国土奪還作戦に参加し、立入禁止区域へと入域した。

 そこは、地獄だった。

 Bランク以上の冒険者が、パーティ単位で参加していた。


 Bランク以上ともなれば、日本の中では屈指の実力者たちだ。

 それでも多くの命を失った。Aランクの冒険者でさえ、あっさり落命していった。


 思い返すのも忌々しい場所だ。

 どうしてそんな場所に自ら行きたいと言い出したのか、まるで想像も付かない。


 だが不思議と、『彼なら生きて帰ってこられるだろう』という確信があった。


「さてさて、彼はあそこで、なにをするつもりなのかな」


 新たにSランクに至る可能性がある人物の行動に、渉は期待せずにはいられないのだった。




          ○




 とある廃墟の一角で、幼い少女が膝をかかえていた。


「にんげん、こなぁい」


 少女はこの地に生まれ落ちてから、ひたすらに人間を待っていた。

 この魔物だらけの世界で、ただ一人、人間を待ち続けていた。


 この地に生まれてから半年になるが、人間には三度しか出会えていなかった。

 そのいずれも、すぐにいなくなってしまった。


 少女は、ずれた肩紐をなおしながら、大きくため息をついた。


「つまんなぁい」


 その着衣は、体に対して僅かに大きい。

 まるで、これからの成長を見越して親が買い与えたもののように見える。


 だがこれは、彼女がその辺で見繕ったものだった。


 ここには、必要な衣服が沢山あった。

 子供用のものも、沢山ある。

 だがいずれも、穴が空いたり、虫が食べたりしてボロボロになっていた。


 唯一、まともに使えそうなものが、いま少女が来ているワンピースだけだった。


「つまんなぁい!」


 少女は大の字に寝転がり、じたばたと手足を動かした。

 この周辺には、魔物が無数生息しているはずだ。

 しかし少女の回りだけは、不自然に魔物が存在しない。


 ――魔物が、彼女を避けているのだ。


「あぁあ、はやくにんげん、こないかなぁ。あそびたいなぁ」


 少女は呟くと、空に手をかざした。

 その指先には、まだ先月触れた人間の感触が残っていた。


 また、人間に触れたい。

 人間の温もりを感じたい。


 人間を――殺したい。


 そう願いながら、少女は新たな人間(えもの)の侵入を待ちわびているのだった。




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執筆活動が大変忙しく、本作の続きに取りかかる時間が取れずにいます。

そのため、更新はしばらくお休みいたします。


大変申し訳ありませんが、何卒ご容赦の程を宜しくお願いいたします。

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