第75話 遠征への下準備

長らくお待たせして申し訳ありません……。





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 日本で最大規模のショッピングモールで、天水ソラはアイテムの買い出しを行っていた。


 そのショッピングモールは、複数の冒険者向け商店が出店している。

 アウトレット商品から、最新武具の予約販売など、ここに来れば全てが揃うといわれるほど、なんでも揃っている。


「……あとは、食糧を買っていくかな」


 ソラはメモの切れ端を眺めながら、買い忘れがないかをチェックする。


 これから、しばし東京を離れる。

 遠征探索だ。


 そのため、冒険者向けの下着や、賞味期限の長い食料品などを買いあさっていた。


 ソラにはインベントリがある。

 これを使えば、一人では運べないほどの荷物を一度に運ぶことができる。


 食料品だって、1ヶ月以上は持ち運べる。


「どれくらい遠征するかわからないからな」


 ソラは禁止区域に入場出来る許可証を手に入れた。


 禁止区域とは、ダンジョンの脅威に抗えず、放棄を余儀なくされた土地を指す。

 この場所では日々、テンポラリーダンジョンがスタンピードを引き起こしている。そのため、その土地では魔物の大群が徘徊している。


 ただの魔物ではない。様々なランクの、ボスも入り交じる魔物の群れである。

 徘徊する魔物の数は千を優に超え、今も増え続けている。


 たとえAランクの冒険者パーティであろうとも、力任せに攻略出来る場所ではない。

 高ランクのパーティがいくつも集まった〝レイド〟でなければ、アタックしたとて無駄に死人を増やすだけである。


 そんな場所に、ソラは単身で挑もうとしていた。


 普通に考えれば、自殺行為だ。

 だがソラには勝算がある。


 ――【隠密】だ。


 これを用いれば、ある程度は遭遇戦を避けられる。

 ――狩られる側ではなく、狩る側でいられるのだ。


「これでよしっ、と。他に忘れてるものはないかなあ」


 インベントリの肥やしになっている武具を売却し、そのお金で食糧を買えるだけ買い込んだ。


 荷物を両手に、店頭を眺めながら歩く。

 忘れ物がないか、メモ用紙を眺めながら最終チェックを行う。


「天水さん!」


 そんなソラに、背後から声がかかった。

 どこかで覚えのある声だ。


(誰だったかな?)


 思い出せないまま振り返る。


「あっ、どうもお久しぶりです」


 後ろにいたのは、変異したテンポラリダンジョンで遭難していたパーティだった。


「ええと、たしか炎陽の……」

「――剣。炎陽の剣の、碓氷です。お久しぶりです。先日はどうも、ありがとうございました」


 パーティのリーダー碓氷が頭を下げた。

 それに習い、後ろにいたメンバーも軽く頭を下げた。


(あれ、他の人はなんて名前だっけ?)


 四人の顔を見ても、名前が思い出せない。

 自己紹介された記憶もない。

 もしかしたらされたのかもしれないが、あの時はベガルタと命がけの戦いを行った。そのせいで、戦闘以外の記憶が頭から抜け落ちた可能性がある。


(……やばい)


 名前を忘れるのは失礼だ。

 なんとか思い出さなきゃと内心慌てていると、突然碓氷たちが一斉に頭を下げた。


「天水さん、すみませんでした」

「ええっ、なにが?」

「このまえ、助けて頂いたときに、天水さんのことは秘密にすると約束しました。でも、それを守ることが出来ませんでした」

「……どういうことですか?」


 人の口に戸は立てられない。

 ソラとしても、約束の反故はある程度織り込み済みだった。


 しかし、ここまで早く反故にされるとは思ってもみなかった。

(そんなに口の軽い奴らだったのか?)

 ソラは眉根を寄せる。


 途端に、柔和な雰囲気が消え、場の雰囲気がいっきり張り詰める。


 碓氷たちが約束を破ったことは不愉快だが、それ以上に、約束が守られなかった理由が気になった。


(僕に謝罪しに来たってことは、たぶん理由を教えてくれるつもりなんだろう)


 彼らへの評価を確定させるのは、それを聞いてからでも遅くはない。

 ソラの予想通り、碓氷が事情を説明した。


「実は――」


 聞けば、元々碓氷たちは約束を守るつもりだった。

 だがそれが、故あって守れなくなった。

 その理由は、冒険者協会理事の春日だ。


 半ば状況を見通したかのような物言いと、元Sランク冒険者としてのプレッシャーが、碓氷の硬い口を打ち砕いたのだ。


(ああ、だからあの時、春日理事はああ言ったのか)


 手早く名前を告げた時、春日理事はこう言った。


『ん、ああ、君が天水くんか』


 その時はなんとも思わなかったが、なるほど、事前に碓氷たちがソラについて漏らしていたとわかった今、その言葉の意味が理解出来る。


(まあ、あの人が相手なら仕方ないか)


 春日理事は、百戦錬磨といった雰囲気のある人物だった。

 何食わぬ顔をして、裏ではいくつも策を巡らせていそうなタイプである。


 さらに、現在Aランクと同等のステータスを持つソラでさえも、彼の前では萎縮するようなプレッシャーもあった。

 炎陽の剣が彼に圧をかけられて、秘密を漏らしてしまったのも無理はない。


「本当に、すみませんでした」

「いやいいですよ。春日理事が相手なら仕方ないです。それに、冒険者協会に嘘を吐き続けるのも問題ですからね。炎陽の剣の心象が悪くなれば、今後の活動に響きます」

「そう言っていただけるとありがたいですが……」


 そこで碓氷が、ソラの荷物を見て目を丸くした。


「すごい量の荷物ですね。もしかして遠征ですか」

「ええ、よくわかりましたね」

「一応、Cランクの冒険者ですから」

「……ん?」


 碓氷の言葉に、ソラは首を傾げた。




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本日より、アプリ版『ガンガンONLINE』にて本作『最弱冒険者が【完全ドロップ】で現代最強』の連載がスタートしました!

(ブラウザ版『ガンガンONLINE』では2週後に投稿開始予定です)


漫画家はichtys(イクシス)さんです。

1コマ1コマ非常に美しい漫画です。

是非皆さん、ご覧くださいませ!



ちなみに続きは鋭意執筆中です。

暖かくなる時期までには再開したいのですが、書籍化・コミカライズ作業が詰まっておりまして、なかなか思うように進みません。


皆様をお待たせして大変申し訳なく思っております。

今しばらくお待ち頂ければ幸いです。

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最弱冒険者が【完全ドロップ】で現代最強【WEB版】 萩鵜アキ @navisuke9

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